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現場知らぬ社員が管理職になる時代 人を育てない「フリーランス化社会」の行きつく果て労働政策研究・研修機構 主任調査員に聞く(後編)(2/3 ページ)

» 2019年01月11日 06時00分 公開
[北健一ITmedia]

ライターは編集長に一生なれない

――現場作業は全て外注業者にさせて、建設会社の社員は現場監督からスタートするというような形になってしまいますね。

 そういうイメージですね。もっとも、例えば建設労働をAIなりロボットに、一気に代替することはできません。日本の建設業は人手が不足していますから、職人を社員にして囲い込む動きも出ています。東京オリンピック後にこの動きがどうなるのかは分かりませんが、全体としてみれば、「社員は現場監督からスタート」という流れが広がるでしょうね。

 「簡単な仕事」がいったん切り離されると、切り離され放しになってしまいます。メディア企業で例えると、編集長とその予備軍だけが社員で、あとはフリーランスに外注するという形になるわけです。そうなると、会社の外の人は、ライターとしてどんなに頑張っても編集長にはなれないですよね。そういう時代が実際に訪れています。

 一方で異なる問題も発生しました。政府がある大企業をバックアップしても、企業の方は多国籍化しているから「自国」のことは考えず税金も少ししか払わない、という問題です。これはどの国でも悩ましい課題になっていますよね。

phot アップワーク社は、フリーランスとして働く人に健康保険や年金、相談窓口などもあっせんしている(同社のWebサイトより)

――どうしたらいいのでしょうか。

 まずは、この構造を皆が理解しなければならないのだと思います。社会の諸課題を解決するために経済発展しようとするのですが、経済が発展していけば同時に貧富の格差も拡大するのです。ならば、経済発展の果実をどうやって公平に分配していくのかという合意と仕組みを作らないといけません。最低賃金引き上げを通じた「底上げ」も、その仕組みの1つでしょう。

 また、企業の発展と一国の経済発展とが、必ずしもイコールになっていないという問題もありますね。OECD(経済協力開発機構)も気付き始めていますが、国際的なコンセンサスを作らなくちゃいけない段階にきています。

 今政府が進めている「働き方改革」は、「残業し過ぎのお父さんが早く帰れるようになって家族と一緒に過ごせる」というワークライフバランスの文脈でも語られています。それ自体は否定はできませんし、私は大変素晴らしい話だと思います。一方で、グローバル競争の中で日本がどこで稼いでくるのか、その競争力の源は何なのかという「根本」を検討し、ビジョンを描くことも同時に求められていると思われます。

phot フリーランサーズ・ユニオンはSNSなどでも積極的に情報発信をしている(同組織のTwitter)

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