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「65歳以上の社員募集」「未経験可」――パソナが“仰天採用”に込めた狙いとはポスト平成の採用戦略(1/3 ページ)

» 2019年03月06日 05時00分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

特集「ポスト平成の働き方」

2019年5月1日に元号が変わり、新たな時代が幕を開ける。平成の約30年間でビジネス環境は大きく変化した。その最大の要因はインターネットの登場である。しかし一方で、働き方や企業組織の本質は昭和の時代から一向に変わっていないように思える。新時代に突入する中、いつまでも古びた仕事のやり方、考え方で日本企業は生き残れるのだろうか……? 本特集では、ポスト平成の働き方、企業のあるべき姿を探る。

第7回は、1月末に「65歳以上の“新入社員”を80人雇用する」という斬新な採用戦略を発表したパソナグループの南部靖之代表取締役に、同制度を始める狙いを聞いた。こうしたシニア登用は、生産年齢人口のさらなる減少が抑制される“ポスト平成”時代のスタンダードになるのだろうか――。

第1回:「平成女子」の憂鬱 職場に取り憑く“昭和の亡霊”の正体とは?

第2回:「東大博士の起業家」ジーンクエスト高橋祥子が考える“ポスト平成の働き方”

第3回:「3年以内に辞める若手は根性なし」という批判が、時代遅れになった理由

第4回:我々はこれからもオフィスで働く必要があるのか?

第5回:麻布、東大、興銀……エリートコースをあえて捨てた男の仕事論

第6回:あなたは「上司の命令なし、社員が何でも決める」職場で働きたいか

第7回:自由な働き方を実現させる最終兵器 「ABW」は日本で根付くのか?

第8回:本記事


 「人生に定年なし」「65歳以上の“新入社員”を80人雇用」――。1月末、人材派遣大手のパソナグループ(以下パソナ)がこんな採用計画を発表し、大きな話題を呼んだ。ネット上などでも、「今後、こうした取り組みがどんどん増えそうだ」「いいことだ」と評価する声から「なぜこんな制度をやるのか」と疑問を呈する声まで、さまざまな意見が集まった。

説明会には約300人が詰めかけた

 “生涯現役”を目指すシニアを雇用する制度の名は「エルダーシャイン制度」。「社員」と「シャイン(輝く)」を掛けたネーミングだ。募集はすでに開始しており、東京・大阪で実施した説明会には合わせて300人ほどが集まった。

 雇用形態は契約社員。1年ごとに更新する方式で、更新回数の制限はない。募集する職種は(1)地方で地域活性化に取り組む「地方創生サービスクルー」(約20人)、(2)フロントオフィス/バックオフィスの専門職「専門エキスパートクルー」(約50人)、(3)社内ベンチャーの立ち上げなどを担う「ベンチャークルー」(約10人)――の3種類。

photo 驚きの採用戦略を発表した、パソナグループの南部靖之代表取締役

 具体的には、(1)は同社が人材誘致を手掛ける兵庫県の淡路島などで、イベント企画、バスの配車管理、建設中の施設の工程管理などを手掛ける。(2)は営業、人事、経理、広報などを担当する。(3)は新規事業を担当する社内ベンチャーを起業したり、パソナがファンド経由で支援している外部ベンチャーの経営コンサルティングに携わったりする。

 応募者の過去の経歴は問わず、定年を過ぎてから上記の職種にゼロから挑戦することも可能。パソナは今後、応募者の適正やモチベーションなどを踏まえて選考し、内定者を80人にまで絞ったのち、3月下旬に“入社式”を行う計画だ。

 医療の発達に伴う健康寿命の延伸などによって“人生100年時代”が叫ばれる今、自社に長く勤め上げてきた人材を定年後に一定期間再雇用する企業は増えつつある。だが、パソナのように外部から80人もの人材を雇用するほか、募集する職種が「未経験でも可」としている企業は他に類を見ない。同社はなぜ、このような取り組みを始めるのだろうか。

photo 「エルダーシャイン制度」の概要(=ニュースリリースより)

「65歳以上の新人」なぜ募集? パソナ創業者、南部靖之代表取締役に聞く

 「シニアから『定年後の余生を何をして過ごせばいいか分からない』といった悩みを聞くことがあり、雇用によって解決したいと考えた」――。こう説明するのは、自身も67歳にして経営トップに立ち続けるパソナ創業者、南部靖之代表取締役だ。

 「シニアを社会に埋もれさせてはいけない。彼・彼女らに仕事をしてもらうことで、企業の収益活動に貢献できるということを世間に広く知ってもらいたい。『年金だけでは定年後に食べていけるかどうか不安』という声もあったため、(給与の支給によって)解決していく」(南部代表)という。

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