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もう、やめない? 部下に理不尽強い続ける“管理職ごっこ”会社をダメにする「仕事ごっこ」(1/4 ページ)

» 2019年07月17日 08時00分 公開
[沢渡あまねITmedia]

この記事は、沢渡あまね氏の著書「仕事ごっこ」より転載、編集しています。


 「郵送」「押印」「手書き」「取りあえず打ち合わせ」「とにかく相見積もり」「メール添付で圧縮してパスワードつけて、パスワードは別送」――。その“当たり前”、今どき、本当に必要ですか?

 こんな疑問を投げかけ、昭和の常識を終わりにしようというのが、働き方改善の支援で知られる沢渡あまねさんの著書「仕事ごっこ」(技術評論社刊)です。本記事は、同書籍から第十二章「女王アリと働きアリ」〜「管理職ごっこ」「管理職ヅラしてマウンティングする人たち」を抜粋して特別公開します。

アリの王国の教訓

 アリの王国のおはなし。たくさんの働きアリたちが、今日もせっせと働いています。みんな、国をよくしようといっしょうけんめいです。

 巣の奥には、大きな女王アリがいます。ほぼ1日中、部屋にこもっていて、働きアリの前に姿を見せることはほとんどありません。ごくごくたまに、えらいアリが部屋に呼ばれて、女王アリにほうこくに行くだけ。ほとんどの働きアリは、女王アリが何をしているのか、あるいは女王アリの顔すら知りませんでした。

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 ある日のことです。1匹の働きアリが、異変に気がつきました。まいにち女王さまのためにと、巣に運んでいる野菜が、今日は何かが違うのです。どことなく、色が黒ずんでいるように見えます。なんだか変なにおいもします。雨ふりの日が続いたからでしょうか? なかまのアリには「気のせいだよ」と言われましたが、気になってしかたがありません。

 しばらくなやんだ、働きアリ。意を決して、女王アリにほうこくすることにしました。

 「トントントン」

 うまれてはじめて叩く、女王さまのお部屋の扉。ノックの音を聞きながら、働きアリはいままで女王アリにあいさつすらしてもらったことがないことに気がつきます。

 「あの、女王さま……」

 おそるおそる扉を開け、奥のソファにしせんを送ります。ところが、女王アリはそっぽを向いたまま。働きアリと目をあわせようともしません。

 「気になることがあり、ごほうこくが……」

 なしのつぶて。今度はななめ上をつんと向いて、ながいマツゲをいじりだしました。

──やっぱり、僕たちのような働きアリは女王さまに口をきいてもらえないんだな。べつに、じぶんが食べるわけじゃないし、どうでもいいや……

 そう自分自身に言い聞かせ、働きアリはいつもの仕事場に帰っていきました。

 別の働きアリ。新入りの彼もまた、巣の外で働いていていつもとはちがう何かを感じていました。アリクイのけはいを感じるのです。森のかげから、ちらちらとアリたちのようすをうかがっているような、そんなしせんを感じます。ひとたびアリクイにおそわれたら、アリの巣はひとたまりもありません。

 「女王さまにお知らせしなくては!」

 そう思った働きアリは、せんぱいアリたちにそうだんしました。ところが……

 「はぁ、新入りが何言っちゃっているの? オレたちみたいな下っぱが、女王さまに話しかけてイイと思ってるの?」

 「おまえは、いわれたとおり、目の前の食べ物を運んでいればいいの。よけいなことはしなくてよろしい!」

 「かんちがいするな。オレたちは『働きアリ』じゃなくて、『働かされアリ』なの!」

 せんぱいアリたちは、つぎつぎにマウンティングしてきます。

──せっかく、よくしようと思って言ったのに……

 たいそう傷ついた新入りの働きアリ。よくあさ、にもつをまとめて別の王国に旅立っていってしまいました。

 そのまた次の日の朝……

 女王アリとそっきんが、ばたばたとたおれて床にふしました。どうやら、食べ物にあたったようです。幸い、ゲンバかんかくのある働きアリはキケンをさっして食べなかったため、無事でした。ところが、その安心もつかのま……

 「シャーッ、シャーッ、シャーーーッ」

 とつぜん、アリクイが巣をおそってきました。やはり、アリクイに目をつけられていたのです。働きアリはたたかうことができません。女王アリからも、そっきんからも、指示がないためです。巣はあっというまにやられてしまいました。

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