クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ヤリスGR-FOURとスポーツドライビングの未来(前編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)

» 2020年01月13日 07時20分 公開
[池田直渡ITmedia]

 トヨタ自動車は、1月20日の東京オートサロンで「GRヤリス」を世界初公開した。トヨタでは、このGRヤリスを「WRCを勝ち抜くためのホモロゲーションモデル」と位置づける。実はこれに先駆け12月16日には、AWD版GRヤリスである「GR-FOUR」プロトタイプ試乗会を富士スピードウェイの特設コースで開催し、筆者もその走りを体験してきている。

「WRCを勝ち抜くためのホモロゲーションモデル」であるGRヤリス

 ということで今回の記事は、内容が山盛りだ。第一にハードウェアとしてのGRヤリスとはどんなクルマなのかを明らかにしないと始まらない。次に、乗るとどれだけ凄いのかはこのページをクリックした人全員が興味を持っているだろうから、これも必須。さらに、取材の中で明らかになった、このクルマがトヨタの「もっといいクルマ作り」の新たなチャレンジであることも伝えたい。最後に2020年代に向けて、スポーツ性の高い、速いクルマを楽しむこと、売ること、ビジネスとして継続するためにどうするのかについて、書き進めたい。

WRCホモロゲーションクリアのための3車種

 ということで、順に書き始めよう。最初に車種構成だ。オートサロンの時点で、GRヤリスには3つのバリエーションがある。AWDを備える車両は『GR YARIS 1st Edition RZ “High performance”』と『GR YARIS 1st Edition RZ』の2種だ(GR-FOUR)。

 車名の一節目、1st Edition は発売記念限定モデルを指し、次のRZもしくはRZ “High performance”がグレードを表す。両グレードの一番の違いは後者にはトルセンタイプのLSDが装備されており、前者には無いことだ。同じくインタークーラー冷却用のウォータースプレーシステムもHigh performance専用だ。

GRヤリスのAWS版のコンポーネンツ

 ちなみに少しややこしいのが、今回の発表モデルには1st Edition という限定仕様の特別装備が加えられており、ひとまず発表はこの限定仕様に限るとのことで、ことにエアロやバンパー類に関して、素のRZとRZ “High performance”の違いが分かりにくい。

 しかしながらポイントを絞れば、トルセンとウォータースプレーが付くヤツが455万円。無いヤツが396万円だと理解すればいいように思う。プレスブリーフィングで車両概要を聞いて、「こりゃ500万円コースだな」と思った筆者から見ると、中身に対してはバーゲンプライスに思える。

 残る1つはといえば、これがまた面白い。頭にGRが付くヤリスとノーマルのヤリスの違いは何かといえば、シャシーとリヤサスの違いだ。GR版では、ルーフにカーボンをおごり、エンジンフードとドアとリヤゲートをアルミ素材に置換している。つまり通常モデルのヤリスとGRヤリスの違いはシャシーの違いである。

 WRCホモロゲーションモデルのGRヤリスと完全に同じシャシーに、もう少しおとなしいパワートレインを搭載しFFのCVTモデルに仕立てた車両が「GRヤリスCVTコンセプト」で、これもしれっと展示されていた。価格も馬力も未発表ながら、396万円に絶望した人にとって救済となる普及版のスポーツモデルになるはずである。

 トヨタの都合としては、WRCのホモロゲーション規定をクリアするために「連続した12カ月に2万5000台」を生産しなければならない。単純計算で月間2083台を売らなくてはならないことになる。中身に対してバーゲンプライスとはいえ、ガチのAWDモデルの価格でこの数量をクリアするのは困難だ。そこで、バリエーションとしてFF+CVTモデルを設け、同一シャシーのモデル全体での台数クリアを狙っているのだ。GRのエンジニアの言によれば、こちらの出来にも相当な自信があるらしく、とても楽しみなモデルである。ということで、車種構成全体から浮かび上がってくるGRヤリス像は、その中心にWRCがあるのは明らかである。

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