グレタさんが振りまく「終末論ムーブメント」――“破滅の未来”はなぜ人々を魅了するのか“環境少女”が世界で受けた真相(1/4 ページ)

» 2020年01月15日 08時00分 公開
[真鍋厚ITmedia]

 環境活動家のグレタ・トゥーンベリ氏の動向が報じられる度に、ネット上では、日本を含む世界中の人々が擁護派と否定派に分かれて喧喧囂囂(けんけんごうごう)となるのが日常風景となっています。擁護派は「地球温暖化の危機」を効果的に訴える宣伝塔としての存在感を評価し、否定派は現代の複雑なエネルギー問題を弁えない目立ちたがり屋の「生意気な小娘」としか見ていません。

 しかし両者とも意外と目を通していないのが、家族自身によって書かれた共著本『グレタ たったひとりのストライキ』(羽根由訳、海と月社)です。同書はかなり普遍的な問題を示したテキストです。赤裸々なファミリーヒストリーとして興味深い内容であるだけにとどまらず、わたしたちが影響を免れない「終末論的な言説」との向き合い方について重要な暗示をしているからです。

photo 環境活動家のグレタ・トゥーンベリ氏(19年12月、スペイン・マドリードで開催のCOP25にて。ロイター提供)

環境問題が「壊れかけた家族関係」再生

 同書には(発達障害を持つ2人の娘の子育てに悩む)「壊れかけた家族」が「地球温暖化の危機」を共有し、ともに闘争することによって「再生」するプロセスが切々たる筆致で綴(つづ)られています。例えば以下のくだり。

 わが子が何年も他人と話をせず、しかも食事に制限があり、数ヵ所の決まった場所で、限られたものしか食べられない。その状態が何年も続いたあと、すべてのごちゃごちゃが突然消失したとしたら、親はまるでおとぎ話か魔法のように思うだろう。その喜びはどれほど大きいことか。

 これはグレタ・トゥーンベリ氏が「気候のための学校ストライキ」を開始した後の変化について両親が抱いた率直な感想です。学校ストライキが一躍世間の注目を集めるようになり、「躁転」(抑うつ状態から躁状態になること)したみたいに元気になったのです。それに狂喜した両親の心中がよく分かる感動的なコメントではないでしょうか。

 これは一種の美談のようにも読めますが、トゥーンベリ家だけの特殊な話に留めておくにはもったいない、誰にでも生じ得る「心理的なモデル」を提供しています。「不安の時代」の新機軸といったところでしょうか。

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