日本からスポーツが消えた日――コロナ禍で露呈したスポーツビジネスの法的リスクと課題今こそ求められる法整備(1/3 ページ)

» 2020年05月08日 04時00分 公開
[瀬川泰祐ITmedia]

 新型コロナウィルスによって甚大な被害を受けているスポーツ界。国民がプロスポーツを安心して観戦できる場所は、いまの日本には存在しない。2月26日に、JリーグやBリーグがいち早く公式戦の延期を発表すると、同日に政府も「多数の方が集まるような全国的なスポーツ、文化イベント等」を「中止、延期又は規模縮小等の対応を要請」し、以降、予定されていた試合やファン感謝祭などの催しは延期や中止を余儀なくされている。

 3月には東京五輪の延期が発表され、4月に入ってからも、プロ野球12球団が2020年度の公式戦開幕の延期を発表するなど、いまだにスポーツ界は時計の針を止めたままだ。

phot 鹿島アントラーズのゴール裏の様子。熱心なサポーターたちが声援を送る姿を見れるのはいつになるのだろうか

試合開催に依存するスポーツビジネスのリスク

 スポーツチームやリーグ(以下、スポーツ団体)の収入は、おおよそ(1)入場料収入(2)放映権収入(3)広告料収入(4)ファンクラブ収入(5)グッズ販売(6)飲食などの出店手数料、といった6つに分類することができる。

 これらの収入は、基本的にはどれも試合の開催を前提にしている。スポーツ団体は、試合を企画・運営し、ファンやサポーター(以下、ファン)にチケットを販売する。また試合の開催に合わせ、ファンサービスの企画のほか、飲食、グッズの販売などを通じ、総合的に非日常体験を提供している。

 一方、数多くの人が集まり、映像や写真などがメディアに露出される試合、さらにはその試合を構成するスタジアムや選手たちを広告媒体とみなし、企業へマーケティング活動の場を提供している。要するに、試合はスポーツ団体が提供する唯一無二の「プロダクト」なのだ。

増え続けてきた広告料収入

 試合が、今回のように長期間にわたって開催できない状況下では、スポーツ団体は収入が途絶えるだけでなく、試合開催を前提にして契約を結んでいるステークホルダーとの関係にも大きな影響を及ぼす。

 「コト消費」という言葉が流行し、ライブエンターテインメントが盛り上がりをみせてきた近年、スポーツ団体の多くは、入場料収入や広告収入を中心に売り上げを伸ばしてきた。しかし入場料収入は、いくら増やそうとしても、スタジアムのキャパシティーに限界がある。このため、スポーツ団体は、より広告収入の売り上げを伸ばすことに力を入れてきた。以下のグラフを見ればその事実は一目瞭然だろう。入場料収入が微増にとどまっているのに対してスポンサー収入はこの10年間で2倍近い伸びを見せている。

phot 公益社団法人日本プロサッカーリーグが発表している「2018年度クラブ経営情報開示資料」(P17)より

 では、唯一無二のプロダクトである試合が開催できない今、スポーツ団体はこの事態にどのように対処していけばいいのだろうか。収入の大きな柱の1つである「広告料収入」にスポットを当て、試合が中止となった場合の広告主とスポーツ団体間の契約の行方を推察してみたい。

複雑化するスポンサー契約の実態

 スポーツビジネスにおいて、スポーツ団体と広告主との契約は、一般的に「スポンサー契約」といわれる。スポーツ団体は試合やWebサイトなど自らが持つ媒体を活用して権益を提供する。広告主はそれらの媒体を活用して商品・サービスのイメージ構築や改善、販売促進、市場におけるポジショニングの獲得などのマーケティング活動を実施し、その対価としてスポンサー料を支払う。

 かつてのスポンサー契約は、ロゴを目立つ位置に露出するだけのものだったが、企業のマーケティング活動が複雑化した近年は、スポンサー契約の内容も大きく変容しているのが実情だ。

 ここで、スポンサー契約の具体的な実施例をいくつか挙げてみたい。先に述べたように、選手らが着用するユニフォームやスタジアムに設置された看板など、目立つ位置に企業ロゴや商品・サービスロゴを掲出するのは、もっとも分かりやすいケースだ。

phot スポーツ施設の中には企業名がつけられていることもある。これは「ネーミングライツ」と呼ばれ、スポーツ施設を運営する企業にとって、重要な資金調達の手法となっている。写真は「味の素スタジアム」

 似たケースとして「○○プレゼンツマッチ」などのようにイベントや大会の名称に企業名が入ることもある。また、イベント当日にブース出店、ノベルティーの配布、アンケートの実施などの販売促進活動を提供するケースもある。その他、プロスポーツクラブがビジネスマッチングの機会を提供することや、VIPルームや招待券を活用したホスピタリティーの提供も行っている。

 これらの試合当日の権益のほかにも、放映権を提供したり、選手のパブリシティー権を活用した広告出演契約を結んだりするなど、「スポンサー契約」の内容は多様化しており、1つの契約書の中に全てを明文化して規定するのは非常に難しいのが現実のようだ。

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