バイドゥ、アリババ、テンセント……「ITジャイアント」生み出した中国企業に学ぶ“超高速ビジネスの作り方”プロトタイプシティ 深センと世界的イノベーション (1/3 ページ)

» 2020年08月29日 13時25分 公開
[澤田翔ITmedia]
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 「まず、手を動かす」ことが時代を制した。現代は、頭でっかちに計画を立てるよりも、手を動かして試作品を作る「プロトタイプ」の考え方が奏功し、「まずは手を動かす」人や企業が勝利する時代だ。そして、先進国か新興国かを問わず、“プロトタイプ駆動”によるイノベーションを次々と生み出す場、いわば「プロトタイプ・シティ」が誕生し、力を持つ状況になっている。

 その代表例が、近年、急速に一般からも注目を集めている中国の都市・深センである。中国のITジャイアントの一角であるテンセントが「未来都市」を建設する計画を明らかにしたが、その場こそが深センなのだ。ではなぜ、深センは世界の耳目を集め続ける「プロトタイプシティ」に変われたのか? 

 新刊『プロトタイプシティ 深センと世界的イノベーション 』(角川書店)より抜粋記事をお届けする。まず第1回目は中国企業の新規事業立ち上げの根底にある「スピード感と軽さ」について新進気鋭の起業家が解説する。日本の事業家たちは、「プロトタイプシティ時代」にどう対応すればいいのだろうか――。

深センにあるテンセント本社。ツインタワーになっている(以下、写真提供:ゲッティイメージズ)

原動力は速さと軽さ

 中国におけるテクノロジー産業の特徴を一言で表すと、スピード感と軽さだろう。これらはハードウェアの作り方、ソフトウェアの組み方だけではなく、企業を取り巻く環境や組織の在り方にまで及ぶ問題だ。中国や米国(アメリカ)と比べると、日本の新しい事業の立ち上げは極めて緩慢だ。

 中国は人材探しや資金調達の環境が整っているほか、スタートアップと、起業家や創業直後の企業に対し、事業を成長させるための支援を行う「アクセラレータ」が集まる街(例えばアリババを退職して起業に挑戦する人が集うアリババドリームタウン)があり、ベンチャーキャピタルも充実している。またスタートアップを支援する枠組み、いわゆるHRテックやクラウド会計などのサービスから、行政によるスタートアップ優遇策に至るまで充実している。

 軽い組織が軽いプロダクトを作って、がんがんチャレンジを繰り返す。それが現在の中国の特徴といえる。

 この速さがなぜ重要なのか。思うに、2000年代中盤からの10年間は非連続的価値創造の時代だった。連続的価値創造では製品の小型化、自動車の燃費改善、計算機の処理速度向上など、プロダクトや用途自体に変化はなく、性能を向上させていくことが重要となる。この連続的価値創造の時代に強みを発揮したのが日本やドイツの企業だ。

 トヨタ自動車の独自手法である「カイゼン」という言葉が代表的だが、性能向上のような連続的価値創造は、一人の天才では何もできない世界だ。大組織に所属する多くの従業員が協力し合い、涓滴(けんてき)岩を穿(うが)つような地道な努力を積み重ねることで成果を挙げてきた。安易に国民性という言葉は使いたくないが、安定的な職や生活をよしとし、協調性を重んじる文化が日本やドイツの強さを支えていたといえるだろう。

トヨタ自動車の独自手法である「カイゼン」という言葉が象徴するように、日本企業は大組織に所属する多くの従業員が協力し合い、地道な努力を積み重ねることで成果を挙げてきた

 ただ、日本やドイツが強いステージは2000年代中盤まで。それ以後の非連続的価値創造の時代においては、アイフォーンやシェアリングエコノミーなど、今までにはないカテゴリーのモノやサービスが生まれてきた。天才が生み出す革新的なアイデアが膨大な価値を生み出す時代だ。野心を持った起業家が作ったスタートアップ企業が見る見る成長し、世界的な大企業に発展する。

 その流れで最初に成功したのは米国だ。グーグルやフェイスブック、ウーバーなどの企業が次々と台頭した。そして、中国からも成功企業が現れた。バイドゥ、アリババ、テンセントなど、BATと呼ばれる巨大IT企業。さらにはショートムービーアプリ「ティックトック」を運営するバイトダンス、ローカルビジネスガイドからフードデリバリーまで手掛ける美団点評、スマートフォンとIoT家電のシャオミ、配車アプリの滴滴(DiDi)など多くのスタートアップが登場した。ユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)の数で、中国は米国に次ぐ2位となっている。

中国のITジャイアントは多くの革新的なアプリを生み出した
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