東北新幹線運休で本領を発揮した快速列車たち 鉄道の“責任”と“誇り”が見える杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)

» 2021年02月19日 09時20分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 2月13日午後11時7分頃、福島県沖を震源とする最大震度6強の地震が発生した。その影響で東北新幹線は架線柱や高架橋に破損が多数発見され、那須塩原駅〜盛岡駅で運休した。当初は2日間で復旧と予想されたけれども、その後の点検で、一ノ関〜盛岡間は被害が軽く16日に復旧。那須塩原駅〜一ノ関間は予想より大きな被害が確認され、復旧まで10日を要すると発表された。

 那須塩原駅〜一ノ関間には福島、仙台がある。東京〜福島、東京〜仙台間は東北新幹線の中でも需要が高い。COVID-19による移動自粛で需要が低い時期だけれども、移動が必要な人はいる。そこでJR東日本はすぐに代替手段を準備した。

引退間近、上野〜那須塩原間を臨時で走った185系電車(同型車、2019年撮影)

ナゾの「185系臨時快速」

 2月14日、在来線の東北本線では、上野〜那須塩原間で臨時快速列車を走らせた。上野発午前11時ちょうど、大宮、小山、宇都宮に停車し、那須塩原着は午後1時2分。折り返して那須塩原発午後1時20分、宇都宮、小山、大宮に停まって、上野着は午後3時18分。所要時間は東北新幹線の約1時間に対して2倍かかった。

 この区間は東北新幹線の運休区間ではない。そのため、登場した理由が不明だった。東京〜西那須野間は東北新幹線の中でも通勤需要があるため、朝夕に各駅タイプの「なすの」が走る。日中も1時間ごとに運行している。2月14日は日曜日だったから、通勤利用者向けの救済手段とは考えにくい。JR東日本から事前告知がなかったため、下り列車については新幹線に乗ろうと駅に来てから案内された人が多かっただろう。考えられる理由として、ネットでは、仙台の車両基地から東京へ向かう列車が動かないため、折り返しの「なすの」に充当する車両が足りなくなったからではないか、という推測もあった。

 理由を推測すると、那須塩原付近で週末を過ごし、日曜に東京へ帰って月曜から仕事をする人々への配慮かもしれない。JR東日本グループのジェイアール関東バスと那須塩原市は包括連携協定を結んでおり、その範囲は定住促進のための交通、観光、災害輸送に及ぶ。バス路線の東京〜那須塩原便は関東自動車との共同運行で、関東自動車5往復、ジェイアール関東バスが2往復ある。しかし緊急事態宣言などを踏まえて7往復全て運休中だ。そこに新幹線のダイヤも乱れたとなれば、在来線で救済すべきだという判断もあったかもしれない。バレンタインに約束をした恋人同士のためだったらロマンチックで粋な配慮だ。

【訂正:2021年2月19日14時30分 初出でバス運行会社名が誤っておりました。関東自動車と訂正しました。】

 しかし実際は運行を聞きつけた鉄道ファンが集まった。使用した車両が3月に引退する185系で、在来線をかつての特急のようなダイヤで走ったこと、しかも特急料金不要の快速列車だ。イベント列車のようにも見える。そのため車掌から「鉄道ファンの方は他のお客さまに配慮を」というアナウンスも流れた。ネットでは批判も多かったけど、ファンが乗りたくなる気持ちは分かる。私もこの時仙台にいたら、この電車で帰ったと思う。せっかく走らせてガラガラだったら運行に関わった人も寂しいだろう。

JR東日本は東北新幹線の迂回路を案内中。バスや航空会社にも要請し、臨時便が出ている(出典:JR東日本報道資料
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