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テレワーク終了宣言? 経団連「出勤者7割減見直し」提言に潜む違和感の正体喉元過ぎれば熱さを忘れる、でよいのか(3/3 ページ)

» 2021年11月24日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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 経済界がテレワークを推進することによる、もう一つ重要な視点は「社会への影響」です。テレワークが推進されて浸透していけば、社会全体にポジティブな影響をもたらすことが期待できます。

 例えば、テレワークを導入して在宅勤務できるようになれば、通勤時間が不要となり、その時間を他の活動に回すことができます。世の中の可処分時間が増えるということです。その結果、家族の会話時間が増えたり、家事育児にゆとりを持って対応できたり、勉強や趣味の時間が確保できたりと、日々の生活の中に新たな可能性が生み出されることになります。

 また、テレワーク体制を整えて通勤せずに済む人の数を最大化できれば、地震などの天災や緊急事態宣言発出などの際、エッセンシャルワーカーやお年寄りなどに公共交通機関を優先的に使ってもらうことができます。他にも、場所にとらわれずに働くことができれば、全国各地どこに移住しても仕事が継続できるようになり、地方創生に寄与することなども期待できます。

 経済界が社会にポジティブな影響を与えている活動といえば、すぐにSDGsやESG、CSRなどが頭に思い浮かびます。それらも意義ある取り組みに違いありませんが、“地球温暖化防止”や“循環型社会形成”といった壮大なテーマに限らず、テレワーク推進など身近な職場環境改善に関する取り組みでも、社会にポジティブな影響を与えられるのです。逆にもし、こうした身近な改革をないがしろにしてSDGsやESG、CSRなどの取り組みだけアピールしてしまうと、表面的に体裁だけ取り繕っているようにも見えてしまいます。

目を向けるべきは「経済」だけではない

 経済界は経済活動を通じて日本社会を動かす原動力です。しかし、経済界が目先の経済活動だけを見ていては、社会からの期待とズレた取り組みになりがちです。テレワーク推進に限らず、長時間労働是正、女性活躍推進、男性育休取得の促進など職場環境改善にまつわる範囲の中だけを見ても、経済界の取り組みはアピール先行で実際の取り組みが追い付いておらず、期待とのズレを感じてしまうことが多々あります。

 テレワーク導入をつらい経験として記憶から消し去りたいと考える会社にとって、テレワークは喉元を過ぎた“熱さ”です。しかし、毎日ラッシュアワーに出社を余儀なくされ、地震などでダイヤが乱れるたびに駅で長蛇の列をつくらなければならない社員やその家族たちにとっては、日々繰り返される通勤地獄こそが、早々に喉元から過ぎ去ってほしい“熱さ”なのです。このような認識のズレを無視して、なし崩し的に過去に引き戻そうとする姿勢では世の中を白けさせてしまいます。

 11月19日、政府は新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針を見直し、経団連からの要請通り出勤者数の7割削減目標を撤廃しました。それでも経済界は、自らの取り組みが社会に与えている影響に目を向ける必要があります。コロナ禍で得た教訓を踏まえると、テレワーク推進の時計の針は、未来に向けてさらに進めていかなければならないはずです。もし今後、経済界がテレワーク推進の時計の針を過去に戻す取り組みをしてしまうようであれば、社会全体もその取り組みの道連れにされてしまうのです。

著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)

ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ3万5000人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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