中小企業の冬のボーナスはいくら? 支給相場を予測する増える業種、減る業種

» 2021年11月29日 13時00分 公開
[企業実務]

 年末賞与の季節が近づいてきました。長引くコロナ禍のなか、ワクチン接種が進んでいます。とはいえ、いまだ先行きは不透明です。そんな今冬の支給相場を予測します(本稿は10月7日時点の情報に基づいています)。

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 本記事は、2021年11月号に掲載された「中小企業の今冬賞与の支給相場を予想する」を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集し、転載したものです。


 厚生労働省が発表する毎月勤労統計によると、従業員30〜99人の事業所の、2020年の年末賞与は、前年同期比0.1%増でした。コロナ禍になって以降2回、賞与が集計されましたが、意外なことに2回とも増加しています。

コロナショックの影響を残す景気

 景気は依然としてコロナショックの影響を受けています。

 内閣府が発表する2021年4−6月期の名目GDP(季節調整値)は、コロナショック後の最悪期であった2020年4−6月期に比べれば6.6%増加しているものの、コロナショックの直前である2019年10−12月期に比べればまだ2.1%減少しています。一時急回復しましたが、最近になって再び2.四半期連続で減少しています。家計の消費支出が減少し、これがそのままGDPの減少となって表れています。

 景気動向指数(CI指数)の一致指数は、8月の値は、2019年12月に比べ4.1%低下しています。ただし、一致指数は1年以上にわたり上昇傾向にありました。景気の先行きを示す先行指数はすでに2019年12月を10.5%上回っています。景気動向指数は順調に回復してきましたが、ここにきてやや失速気味です。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

企業収益は底を打つ

 企業収益は底を打ったとみられます。財務省発表の法人企業統計によると、4−6月期の売上高(季節調整値)は、コロナ直前の2019年10−12月期よりは下回るものの、最悪期である2020年4−6月期よりは10.4%上回っています。経常利益(季節調整値)はすでにコロナ直前を12%上回っており、四半期としては過去30年間で3番めに高い水準です。

 売上高の減少は、コロナだけが原因とはいえません。もともと2019年10−12月期まで4.四半期連続で減少していました。コロナがなくても大差ない水準まで下がっていた可能性があります。

 コロナの影響を最も受けたのは飲食サービス業で、4−6月期の売上高(原数値)は、コロナ直前に比べ11.7%減っています。しかし、コロナ以前も現在より少ない時期が何度もありました。最近期は過去4年間でみると際立って少ないわけではありません。

 日銀短観の業況判断指数(業況が、「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた数字)は、9月調査でマイナス8%です。同指数もやはりコロナ前から低下傾向にあり、コロナがなくてもマイナスになっていた可能性があります。過去30年間で、中小企業の業況判断指数がプラスだった時期は少なく、マイナス8%というのは、マイナス幅がむしろ小さい部類に入ります。

需要減と労働力不足が連動

 雇用はコロナの影響を受けつつも、極めて悪いわけではありません。コロナによる需要の減少が、少子化による潜在的な労働力不足と連動しています。

 完全失業率は、昨年10月から今年3月にかけて低下傾向にありましたが、最近になり再び上昇してきています。ただし、今年8月の2.8%という数字は、過去20年間でみれば相当低い部類に入ります。そのうえ一本調子で上がってゆく兆しも見えません。

 正社員有効求人倍率(季節調整値)も、コロナで落ち込んだものの回復してきています。昨年11月と12月が最悪期で、以後順調に上昇しています。今年8月は0.92倍で、求人数と求職者数が均衡する1.0倍に近づいています。

 日銀短観の雇用人員判断指数(人員が、「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業の割合を引いた値)は、今年9月調査ではマイナス20%と「不足」が勝り、4期連続で低下しています。「過剰」が勝ったのは29業種中3業種(10%)しかありません。

 毎月勤労統計の所定内給与(超過勤務手当を含まない給与、従業員30人以上)はその性質上、コロナ後の最悪期でも前年同月比0.7%というわずかな減少にとどまっていました。今年7月はすでにコロナ直前の値と同額まで回復しています。

 毎月勤労統計の所定外労働時間(企業規模30人以上)は、一時はコロナ前の75%の水準まで減っていましたが、今年7月はコロナ前の水準まで回復しています。

年末賞与はほぼ横ばいを予想

 以上を振り返ると、今冬賞与が減ると予想すべき根拠はあまりないようです。まずコロナ禍にありながら、最近2期の賞与はむしろ増えています。景気や企業収益は完全に回復したと言えませんが、最悪期に比べれば改善しています。雇用や賃金はコロナショックを相当程度克服したと言えます。

 気になるのは大規模事業所の賞与の動きです。毎月勤労統計の賞与でも、従業員1000人以上の事業所では、昨年夏季は2.6%、昨年年末は5.5%、それぞれ前年同期比で減少しています。しかし、それが従業員30〜99人事業所の賞与の先行指標であるという明確な関係はみられません。

 こうしたことから、従業員30〜99人規模の事業所の今冬賞与は、大きな変動はなく、前年同期比0.2%増である35万2000円前後を予測します。

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 最も大きな伸びを予測する業種は、「業務用機械器具」です。売上高、経常利益とも過去5年間で最高水準にありながら、昨年の年末賞与が前年同期比で21.8%も減っているので、揺り戻しがあると予測しました。逆に最も大きな減少が予測されるのは「電気機械器具」です。売上高、経常利益、賞与とも、最近3年間は減少傾向にあるためです。

著者:神田 靖美(かんだ・やすみ)

賃金コンサルタント。リザルト株式会社代表取締役。金融機関等に勤務後、株式会社賃金管理研究所を経て賃金コンサルタントとして独立。

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