フェイスブックがVRに約2000億円を投資する本当の理由:新連載・西田宗千佳のニュース深堀り(1/3 ページ)
本格的に盛り上がり始めたバーチャルリアリティ(VR)市場。なぜいま、多くの企業は、投資家はVRに注目するのか。VRがもたらす本当のビジネス価値について読み解く。
西田宗千佳 著者プロフィール
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、PC・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。近著に「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「すごい家電」(講談社ブルーバックス)がある。
「2016年はバーチャルリアリティ(VR)の年」といわれている。理由は、VR対応のディスプレイであるヘッドマウントディスプレイ(HMD)が、今年相次いで商品化されるからだ。
フェイスブック傘下のOculus(オキュラス)が販売する「Oculus Rift」が3月下旬に、HTCとPC向けゲーム配信大手のValve(バルブ)が共同開発した「HTC Vive」が4月上旬に出荷を開始し、ソニー・コンピュータエンタテインメントも2016年上半期の発売を予定している。
上記の製品はPCやゲーム機と連携する本格的なものだが、スマートフォン向けのものは2014年ごろから製品化が進んでいる。段ボール製のケースにスマートフォンを差し込み、ディスプレイ代わりにするグーグルの「Cardboard」や国産の「ハコスコ」のようなものから、サムスン電子がOculusと共同で最適化と開発を行った「Gear VR」まで、バリエーションはさまざまだ。
今年の2月半ばにスペイン・バルセロナで開催されたモバイル関連展示会である「Mobile World Congress」では、携帯電話各社がVR関連機器をアピールした。サムスン電子は発表会で来場者全員にGear VRをかぶらせたし、LG電子は2016年向けフラッグシップモデル「LG G5」と組み合わせて利用するHMD「LG 360 VR」を発表した。今年発売されるPCやゲーム機、スマートフォンの多くで「VR」というキーワードを見かけるはずだ。
技術的詳細については、他の多くのメディアが書かれると思うので、ここでは触れない。重要なのは、「なぜここにきてVRが注目されるようになったのか」ということだ。
まずはゲーム。だがそれだけでは終わらない
VRという言葉は新しいものではない。概念は1960年代、コンピュータグラフィックス(CG)の誕生とともに生まれており、1990年代には日本でも「第一次VRブーム」が起きた。当時はCGが生活に浸透するタイミングでもあり、VRの持つ「もう一つの現実」という言葉が新鮮味をもっていた。
だが、当時のテクノロジーでは「現実と錯覚するようなもう一つの現実」を、リアルタイムに生み出すのが難しかった。言葉と現実のギャップから、VRを身近な製品に落とし込むことができず、ブームがしぼんでしまったわけだ。
あれから20年以上が経過し、リアルタイムCGの技術は大幅に進化した。まだまだ初歩的な段階ではあるが、映像面で「もう一つの現実」を描く準備はできた。2012年にOculusが創業し、最初のプロトタイプを公開した際、視界を映像で置き換える形のHMDが、もうすぐ実用になるということを多くの関係者が認識した。
「VRといえばゲーム」という印象が強い。事実、20年前のVRブームをけん引したのはゲームだし、今回についても、まずは「リアリティのあるゲーム」への渇望がVRへのニーズとなることは間違いない。VRコンテンツ製作にはUnityやUnreal Engineといった、俗に「ゲームエンジン」と呼ばれるソフトが使われることが多いし、VR用HMDにも、VRデモ用としてゲームがセットで出荷される例がほとんどだ。
誰もがそのニーズを理解しやすいし、内容が魅力的であれば数万円、数十万円といったコストを支払う人も一定数存在する底堅い市場だ。家庭向けだけでなく、ゲームセンターやテーマパークなどのアトラクション向けに、B2Bで展開することもできる。
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