ついに「10速オートマ」の時代が始まる:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
オートマ車の変革スピードが加速している。以前は4段ギア程度がわりと一般的だったが、今では5段、6段も珍しくない。ついにはホンダが10段のトルコンステップATを準備中なのだ。いったい何が起きているのか。
倍率の意味するもの
昔のトランスミッションでレシオカバレッジが小さいものだと、4.11とか4倍台前半のものも少なくなかった。スポーツカー用の特殊なものだと3倍台もある。近年設計された6段程度のものだとこれが5倍台まで大きくなり、前述のダイムラーは9.17、ZFは9.81と10倍に迫る勢いになっている。なぜこんなことをするかと言えば、巡航時のエンジン回転を低く保って燃費を良くするためだ。
仮に刻みが5つのままレシオカバレッジを4.11から9.81まで倍以上に増やせば、階段1段の段差が大きくなる。つまり「クロス」の反対の「ワイドレシオ」になってしまう。これでは加速が滑らかにつながらないし、回転の低い燃費の良いところを常に保って上手に使うことができない。だから多段化するのだ。
「多段化なんてしなくても、元のレシオカバレッジのまま、全体を高速側に移動すればいいのでは?」と思う人もいるかもしれないが、クルマはエンジン性能と車両重量でほぼ自動的にローギヤ(1速)のギヤ比が決まってしまう。1速のギヤ比を高速側に振る(ギヤ比を下げる)と発進加速が鈍くなってしまうのだ。
階段で考えたって1段目を高いところから始めることなんてできるわけがない。だからレシオカバレッジの小さい変速機を使う限り、高低差に限界がある。実際のクルマなら、トップギヤ巡航時のエンジン回転数を押さえるのは難しくなる。ということは、レシオカバレッジが小さければトップギヤでの巡航燃費が悪いのを我慢するしかないのだ。
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