振り返れば見えてくる 孫正義の買収哲学とは?:加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(1/4 ページ)
ソフトバンクによる英ARMの買収は、世間をあっと驚かせた。孫氏がどのような意図を持ってARMを買収したのかを理解するためには、同社の過去の買収案件を知ることが早道だろう。
ソフトバンクによる英ARMの買収は、世間をあっと驚かせた。同社の孫正義社長はこれまで何度も「非常識な」買収を試みてきたが、さすがにARMの買収に踏み切ると予想した人は、ほとんどいなかったに違いない。
ARMが超優良企業であることや、IoT時代において同社が持つポテンシャルが大きいことは誰もが認める事実である。だが通信という共通項が存在する以外、今のところ両社に目立ったシナジーがないのもまた事実である。キャリア事業を営むソフトバンクと、IoTのチップ設計を手掛けるARMとでは、今のところ直接、協業する場面は想像しにくい。だが孫氏は「ほとんどの人がピンとこない(はず)」と意に介す様子はない。
ソフトバンクはこれまでも、多くの人が理解できないM&A(合併・買収)を繰り返しながら、巨大企業に成長してきた。孫氏がどのような意図を持ってARMを買収したのかを理解するためには、同社の過去の買収案件を知ることが早道だろう。
上場して得た資金を元に、米国の展示会を買収
ソフトバンクは、今でこそ巨大な通信会社に成長したが、創業時はソフトウェアの流通という非常に地味な業態からスタートしている。その後、PCブームに乗る形で出版事業を拡大し、1994年には上場を果たした。上場によって大規模な資金調達のメドが立ち、ここから一連の買収戦略がスタートすることになる。
当初、同社は米国のコンピュータ展示会と出版社を立て続けに買収している。1994年に米Ziff Davisの展示会部門を200億円(当時のレートで)で買い取り、続いて、世界最大のコンピューター展示会「COMDEX」を800億円で手に入れた。翌年にはZiff Davisの出版部門を2100億円で買収している。
買収した企業は、ソフトバンクの国内事業との直接的なシナジーはなかった。当時、COMDEXの買収については、ただの展示会に800億円もつぎ込むなど、狂気の沙汰だという評価が一般的だったのである。
買収した米国事業について、その後どう展開していくのか、孫氏自身に明確なシナリオがあったとも思えない。実際、COMDEXやZiff Davisの買収によって獲得した展示会事業や出版事業に大きな進展はなく、一連の事業は1999年から2000年にかけて売却もしくはソフトバンクからの分離という形で、中核事業ではなくなっている。
また1995年に累計1300億円を投じて買収したキングストン・テクノロジー(PC向けメモリーの製造・販売会社)は1999年に約540億円で創業者に売り戻してしまった。保有期間中の配当などを考慮に入れない場合、1000億円近くの損失を出した計算になる。
しかし、COMDEXの買収は、のちにソフトバンクに途方もない果実をもたらすことになった。それはネット企業である米Yahoo!への出資である。
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