マツダとボルボがレストアプログラムを提供する意義:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
先週、幕張メッセで開かれたイベント「オートモビル カウンシル」で2つの話を聞いた。この取り組みは、今後「自動車文化」を本当に豊かにしていくかもしれない。
それだけではない。何とタイヤのリプロダクションを計画中だという。実は初代ロードスターのタイヤは新車でデビューした当時からクラシカルなトレッドパターンを持っていた。純正装着タイヤはブリヂストン、ダンロップ、ヨコハマの3社から供給を受けており、それらは当然それぞれ別のトレッドデザインを持っていたが、一様にレトロクラッシックなトレッドパターンを与えられていたのである。これらのトレッドパターンは、当時の開発チームにいた立花啓毅氏のこだわりで各社に要請してわざわざ作ってもらったものだったと聞く。
サイズは185/60R14。懐かしきテンロク・クラスの標準的サイズだけあって、今でもかなり選択肢が多い方だ。しかしタイヤはクルマの雰囲気を大きく変える。見た目だけでなくハンドリングも変わるし、細かいことを言えば、昨今のハイグリップタイヤは、当時のシャシー設計で想定したより遙かにグリップが高く、長い目で見ればボディの劣化を促進する可能性もある。だから、もう一度オリジナルの状態に戻したいと考える人がいるのはよく分かる。さすがに3社全部のタイヤをリプロダクションでというのは無理だろうが、少なくとも1社と現在交渉が進みつつあるらしい。マツダも大変だと思いながら尋ねてみると、このタイヤのリプロダクションの話はユーザーからのリクエストではなく、マツダ自身が言い出したことだと中山氏は言うのだ。
それだけのこだわりがあるなら、当然レストアのパッケージプログラムとかも考えているのではないかと中山氏に尋ねると、まだはっきりしたことが決まっているわけではないが、検討はしているとのことだった。
ほかにどういう要望が多いのかを尋ねると、やはり塗装に関する要望は多いという。自動車メーカー自身が塗装を引き受けるとなれば、最も期待するのは下塗りのカチオン塗装だ。それは錆(さび)を防止するために下地塗料の入ったプールにボディを丸ごとつける作業だ。このときボディには電流が流されており、陽極性の塗料と陰極性のボディのおかげで均一かつ細かいところまでしっかり防錆塗装ができる。これは街の板金修理工場では不可能な作業で、自動車メーカーだけが可能な下地処理だ。新車の場合、この後ロボット塗装機でボディ色を数層に渡って塗り、最後にクリア塗装を掛けることで塗装が完成する。
そこで中山氏に勢い込んで尋ねた。「カチオン塗装ができたりする可能性は?」。中山氏は苦笑いしながら「いやさすがにそこまでは」と言ってから、一瞬考え込み、もしかしたら要望が多ければ何か方法があるかもしれませんという。あくまでもその場で出たただのアイデアであり、マツダとしてはできるともできないとも言っていないが、もしそんなことができたら素晴らしいではないか。
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