シベリア鉄道の北海道上陸に立ちはだかる根本的な問題:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
日本のロシアに対する経済協力について、ロシア側がシベリア鉄道の北海道延伸を求めたという。JR北海道は鉄道事業を縮小し、ロシアは極東という辺境へ線路を延ばす。その背景を探ると、どうやら日本と世界は鉄道に対する認識そのものに違いがありそうだ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
10月3日に産経新聞が報じたシベリア鉄道の北海道延伸に関する記事が、主に鉄道ファンや北方領土に関心を持つ人々の間で話題になっているようだ。
実は、この構想は5年前の2011年12月にロシアのプーチン大統領がテレビ番組で表明している。毎年恒例の「国民との対話」をテーマとした番組だそうで、「樺太(サハリン)島とロシア本土を鉄橋で、樺太島と日本をトンネルで結ぶ」「日本側とこの件について討議している」と語った。しかし日本の外交筋は否定したという(関連リンク)。
ところが、当時の小泉純一郎内閣の首席総理補佐官を務めた飯島勲氏は2012年の著書で「この計画を進めて日本の経済を変えたい」と記している。正式ルートには乗っていないけれども、政府側もこの計画については認知し、検討していたことを匂わせる。当時、プーチン大統領の政治手腕に否定的な報道も多く、政権が危ういとウワサされていた。私も「プーチンはきっと、景気の良い話をしたかったんだ」と思った。
それから5年。今回は北方領土返還について進展がありそうだという報道もあり、シベリア鉄道の北海道延伸は、それを念頭に置いた経済協力の1つになったという。産経新聞の記事では日本側も対応する様子だ。日本の鉄道技術の輸出にもつながり、日本側のメリットもありそうだ。
カネと時間があれば不可能ではない
この話で鉄道ファンが食いつくポイントは2つある。
1つは軌間(レールの間隔)の違いだ。シベリア鉄道、正確には第2シベリア鉄道と呼ばれるバイカル・アムール鉄道(バム鉄道)を樺太経由で北海道に延伸したとしても、軌間が異なる。ロシアの鉄道の軌間は1520ミリメートルという特殊な規格だ。これはヨーロッパ諸国からの侵略を防ぐためという説もある。一方、日本の在来線は1067ミリメートル、新幹線は国際標準の1435ミリメートルだ。シベリア鉄道の北海道上陸地点を宗谷岬と仮定して、そこまで日本の規格の線路を延伸しても、車両は直通できない。
2つ目は、ロシアの鉄道が日本に到達したとき、日本側の線路そのものがないかもしれない。最近報じられているように、JR北海道は過疎路線の廃止を検討している。宗谷本線の名寄〜稚内間は鉄道輸送密度が500人/日だ。JR北海道としては廃止を前提として沿線自治体と協議する方針のようだ。つまり、ロシアが頑張って、いや日本政府も協力して、シベリア鉄道が北海道まで延伸しても、上陸地点に日本の鉄道はない。
ロシアの鉄道貨物を北海道内で陸揚げしたとして、そこからトラック輸送では本州まで運べないし、宗谷岬で日本国内航路の貨物船に積み替えるくらいなら、既存の海上ルート、ウラジオストク港で日本向けの船に積んだほうがいい。
しかし、2つの問題は技術的に不可能ではない。カネと時間をかければ解決できる。
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