電通や東芝といった大企業が、「軍隊化」してしまうワケ:スピン経済の歩き方(2/5 ページ)
電通の女性新入社員が「過労自殺」したことを受け、「オレの時代はもっと大変だった。いまの若い者は我慢が足りない」と思った人もいるだろう。上の世代にとっては“常識”かもしれないが、なぜそのような考え方をしてしまうのか。
逃げ出す若者は「情けない」
長谷川教授の主張の根っこにある考え方というのは、分かりやすく言えばこうなる。
「我々も若いときは長時間労働やらきつい目にあってきたんだから、今の若い人たちもちょっとくらいの辛さで泣き言を言うな」
これは特にユニークな考えではなく、企業の中で長く生きてきた上の世代からすれば、「常識」ともいうか、かなりベーシックな仕事に対する考え方だ。「辛い体験」を経て成功をした企業人は、若い世代にも自分と同じような体験が必要だという考えにとりつかれる。だから、そこから逃げ出す若者は、「情けない」となる。
このような「オレができたことをお前ら若い連中はなぜできぬ」的思想が、特に際立って強い企業が、新入社員に富士山登頂をさせるなどコテコテの体育会系文化をもつ電通だ。
『部長「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」「会議中に眠そうな顔をするのは管理ができていない」「髪ボサボサ、目が充血したまま出勤するな」「今の業務量で辛いのはキャパがなさすぎる」 わたし「充血もだめなの?」』(女性社員のツイート)
これを見て、「想像を絶するブラック企業だな」と驚愕(きょうがく)される方も多いだろうが、電通で家族や友人が働いている人からすれば、「そんなもんでしょ」という反応ではないだろうか。「朝まで接待で飲んでゲロ吐いて、家に帰ってシャワー浴びてすぐプレゼン」なんてのは電通マンでは日常風景であり、「寝てない」「休みをとっていない」なんてグチは、「お疲れさまです」のように社内あいさつ化している。
想像してほしい。そのような地獄のような日々を乗り越えて一人前の「電通マン」となった人が、髪ボサボサで眠そうにしている新人を見たらどういう感情がわきあがるか。「オレの新入社員時代はもっとひどかったぞ」「会社で働くことが甘くないってことを身体でわからせてやる」と「指導」がさらに厳しくエスカレートしていくのではないか。
つまり、長谷川教授や電通の部長たちなど企業人たちが固執する「オレができたことをお前らはなぜできぬ」的思想が、女性社員に対する周囲の精神的なハラスメントを引き起こした可能性があるのだ。
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