名言や社訓に洗脳される若き老害たち:常見陽平の「若き老害」論(1/2 ページ)
「若き老害」――。自分自身も若いのに、後輩や部下をマウンティングする社員を指す。特に顕著なのは「名言」や「武勇伝」などを押しつけるマウンティングである。その実例や背景について考えてみる。
この連載について:
老害とはなんだろうか。辞書には、「企業や政党などで、中心人物が高齢化しても実権を握りつづけ、若返りが行われていない状態」とある。
では、老害とは具体的に、何歳くらいの人のことを言うのだろうか?職場の年齢構成、世代間の差、人材マネジメント方針、価値観などの変化から、「老害の若年化」ともいえる奇妙な状態が起きている。トライブ間の格差が顕在化しているのである。
そこには、バブル対ロスジェネ対ゆとりというような単純なものではない、抗争がある。これは単なる世代闘争ではない。若き老害族とそれ以外との闘いなのだ。
名言、格言、武勇伝を駆使してマウンティング
「Stay hungry, stay foolish.ジョブズが教えてくれたことを、僕は忘れない」――。「意識高い系」のよくある行動パターンで、このように名言を受け売りするというものがある。偉人が発した有名な言葉も、経営者や上司や大学の先生が言った言葉も、受け売りする。受け手のリテラシーが低いと、あたかもその人の言葉だと思えてしまう。
この名言の受け売りは「若き老害」たちのお家芸でもある。新入社員などに対して、若手社員がドヤ顔で名言を引用しつつマウンティングする光景が職場では展開されるのだ。
後輩への指導などの場面で、いちいち名言などを引用されるのは迷惑な話である。わずか数年しか長く勤めていないのにも関わらず、その間に知ったビジネス名言・格言を駆使してマウンティングをするのだから、質が悪い。
さらに、だ。世の中一般に知られている言葉によるマウンティングならまだいい。しかし、その企業に伝わる言葉や武勇伝、特に社長の座右の銘や、会社のビジョンなどをもとにマウンティングしたら、もう勝ち目はない。そんなもの、知るかという話である。長年続いている企業ならまだ分かるが、スタートアップベンチャーでそんなことを言われても、迷惑だ。
もっとも、これは若き老害社員だけが悪いわけではない。2000年代に入ってから、多様な従業員の行動の方向性をそろえるため、モチベーションを上げるためにも各社でビジョンやミッションの策定などが相次いだ。
創業して間もないベンチャー企業においても、この手のものは策定される。ビジョンや社訓は、まるでポエムのようになっており、さり気なく従業員の愛社精神に火をつける。
社畜化をはかるための道具なのだが、この手のものを浸透させるべく、経営者は社員に、やたらとビジョンの話をするのだ。採用活動においても、利用される。若き老害社員はこれに洗脳されたとも言えるだろう。
とはいえ、この手の名言受け売り型の若き老害社員は後輩にとってはいい迷惑である。
関連記事
- いま職場で“若き老害”が増えている
「老害」の概念が変化してきている。いわば「老害」の「若年化」ともいえる問題だ。この連載では、常見陽平が職場にはびこる「若き老害」という現象を全6回シリーズで読み解く。 - なぜ日本人は“世代論”が大好きなのか
常見陽平が職場にはびこる「若き老害」という現象を全6回で読み解くシリーズ。第2回は日本人が大好きな「世代論」「世代闘争」が若き老害を生み出している……という話。 - 新卒一括採用が「若き老害」を生み出している
常見陽平が職場にはびこる「若き老害」という現象を全6回で読み解くシリーズ。第3回は新卒一括採用によって「○年入社組の同期」というものを作り出すシステムが、「若き老害」の誕生を助長している……という話。 - 「残業(長時間労働)は仕方ない」はもうやめよう
電通の新入社員が過労自殺するという事件が起こり、話題になっている。政府はいま「働き方改革」を進めて長時間労働の是正に取り組んでいるが、繰り返されてきたこの問題を本当に解決できるのだろうか。労働問題の専門家、常見陽平氏に話を聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.