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モーレツ社員こそ、働き方改革が必要だ「電通鬼十則のどこがダメ?」

「電通鬼十則」が批判を浴びているが、「正直、どこが悪いんだろう」と思っているモーレツ社員は少なくない。働き方改革に乗り切れない社員たちに、“働きやすい企業”で知られるサイボウズはどのように対応したのか?

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 多くの企業が今、ワークスタイルを変革する必要に迫られている。しかし、激しい競争を生き抜いて来た日本企業のビジネスパーソンの多くが、“働き方改革”の風潮に落ち着かなさを感じている。

 「20代でモーレツに働いたおかげで今の自分がいるのに」「ワーク・ライフ・バランスなんて考えていたら、売り上げは伸びない」「『電通鬼十則』が批判を浴びているけれど、正直どこが悪いんだろうか……」と本心では思っている人も少なくないのではないだろうか。


モーレツ社員の中には、“働き方改革”に乗り切れていない人も多いのでは

 「自社のワークスタイルを改革しようとしている経営者や担当者が『自分たちは従業員のために制度を作っている。でも、俺は今まで通りバリバリ働くよ』と思っているケースが多い。けれど今は『24時間戦えますか?』の時代ではない。長時間労働の是正や働き方改革は、企業の経営課題。トップこそ率先して取り組まなければいけない」

 こう語るのは、クラウド型グループウェア大手サイボウズ社の営業本部長栗山圭太氏。サイボウズはGreat Place to Work社が毎年行っている「働きがいのある会社ランキング(中小企業部門)」で2年連続3位を獲得。働き方改革に積極的に取り組む企業として注目を集めている。

自由度の高い人事制度を採用するサイボウズ

 サイボウズは、自由度の高い人事制度やサポート制度を採用している。

9種類の働き方

 時間と場所を軸に、A1からC3まで9種類の働き方が選択できる。「オフィスで9時間以上働きたい」という人にも「オフィス以外の場所で短時間で働きたい」という人にも対応できる柔軟な仕組みだ。自分がどこに属すのか1カ月ごとに設定できるので、ライフステージに合わせて働き方を変更できる。


9種類の働き方

副業解禁

 多くの企業で禁止されている副業だが、サイボウズは解禁状態。「通常業務に無関係」「業務にマイナスにならない」「サイボウズの社名を出さない」ものであれば副業の申請も不要。そもそもサイボウズでの仕事が“主業”である必要もなく、“複業”と呼ばれている。例えば、サイボウズの中村龍太氏は、「kintone」エバンジェリストだが、ダンクソフト、NKアグリでも“複業”を行い、ITと農業という全く違う分野でエキスパートとして活動している。

休暇制度

 育児休暇は最長6年。また、男性社員も育児休暇を取ることを推奨される。最近育休を取った男性プロダクトマネジャーは、当初は長期の育休を取るつもりは全くなかったが、上司と社長から「1カ月間、週4日完全在宅勤務をしよう。立場のある人間から率先して育休を取ろう」と指示され、育休を取ったのだという。

カフェ代補助

 「アポとアポの間に時間が空くので、カフェで作業したい。カフェ代の補助は出ないか」という営業からの要望に応えて生まれた制度。「アポとアポの間の時間を有効に使う」という目的に沿っていればカフェ代を補助する。

“バリバリ働きたい社員からの不満”どう解決する?

 サイボウズが人事制度を充実させた理由は1つ。「昔のサイボウズは、離職率が年間28%。毎月バンバン人が入って、バンバン辞めていく状態だった」(栗山氏)――その状態を改善するために、05年に青野慶久社長がトップダウンで改革を始めた。その結果、離職率はぐっと下がり、現在は4%程度になっている。


かつて離職率が高かったサイボウズ。今では4%程度

 導入は簡単ではなかった。社内から「これでは働けない」と不満の声が上がったというが、青野社長は「変わるか、去るか」を選ばせたという。

 「会社として苦しい時期もあった。働き方を変えてからしばらくは、売り上げが全く伸びていないのに、人件費の比率がどんどん上がっていった。でもそこで諦めず『ワークスタイルを変えていくんだ!』という思いを貫いたら、売り上げがついてきた」

 人事制度改革に伴いよくあるトラブルは、“バリバリ働きたい社員からの不満”だ。サイボウズはその不満に、“情報をオープンにする”ことで対応している。


サイボウズの年次イベント「サイボウズデイズ」で語った栗山圭太氏

 「『自分はこんなに働いているのに、働いていないあの人より給料が低いんじゃないか』といった不公平感が従業員に出てしまうとダメ。サイボウズではデータベースで誰がどの働き方を選択しているか公開している。9種類の働き方に応じて給与体系を分けているので、給料の上での不公平感を減らしている」(栗山氏)

 働き方を相互に把握しているため、サイボウズでは短時間勤務の従業員も、在宅勤務の従業員も、気兼ねなく働いているという。

 「僕も自分の過去を振り返ると、寝袋で会社に泊まるくらい猛烈に働いて、スキルアップしてきたという気持ちもある。でも、時代は変わって来ている」(栗山氏)

ワークスタイル変革に必要なこと

 こうした実践例を見ても、「うちの会社では無理そうだ」という感想を抱くビジネスパーソンも多いかもしれない。栗山氏は、発注する側のワークスタイル改革は実は簡単だが、営業、SE、制作といった“お客さんがいる”受注側は難しいと語る。

 「どんなに内部で働き方を変えようとしても、お客さんに言われたからやらなくてはいけない……となってしまいがち。発注側に変わる意識がないと、働き方は変えられない。『自分たちが働きやすくするために、外部で新たな長時間労働を生んでいないだろうか』『設定した納期は本当に譲れないのか?』と考えてみてほしい」

 2016年に大きな話題を呼んだ電通も、“クライアントの要求に応える”ための長時間労働が常態化している。大企業や発注側、そして「鬼十則のどこが悪いの?」と思っている人こそまず意識を変え、働き方を改革していくことが必要とされている。

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