2015年7月27日以前の記事
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Uber日本展開で「UberEATS」が果たす役割新しい働き方を生む効果も

9月に上陸して好調の「UberEATS」。Uberの基幹事業である配車サービス「UberX」の普及は進んでいないが、UberEATSで認知度を上げ国内での存在感を増しつつある。“新しい働き方”も生み出しているUberの日本展開とは?

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 9月に上陸したフードデリバリーサービス「UberEATS」が好調だ。サービス開始から約2カ月半、対応地域の拡大を発表。アプリは日本Googleが発表した「ベストオブ2016」のベストローカルアプリ部門の大賞を受賞した。


好調なフードデリバリーサービス「UberEATS」

 運営している企業・Uberの基幹事業は「ライドシェア」。配車サービス「UberX」は世界70カ国400以上の都市でサービス提供し、累計乗車回数は20億回を突破。Uberが米国で生まれた背景には、深刻な渋滞、車の排気ガスによる環境汚染、人口密集による住宅地や商業地不足などの社会問題がある。

 Uberは「“一家に車一台”という使い方は非効率的。車を社会でシェアしていき、社会全体の車の数を減らすべきだ」と主張する。そうすれば、渋滞や環境問題が解消される上に、駐車場のスペースを他用途に使用できるようにもなる――という考えだ。

 米国では交通インフラの1つとして定着しつつあるUberだが、日本ではいわゆる「白タク」を禁止する道路運送法や、タクシー業界からの反発もあり、京都府京丹後町や北海道中頓別町での実証実験を除けば普及が進んでいない。現在正式に展開しているのはプレミアムセグメント向けの乗車サービス「UberBLACK」と、出前サービス「UberEATS」だ。

日本で進まぬライドシェア。UberEATSで認知度上昇

 UberBLACKはハイヤーをアプリで配車するサービス。日常的にUberを利用している海外ユーザーが抵抗なく使うことができるため、日本においても直近の3カ月で70か国の人々がUberBLACKを利用したという。人気の行き先は羽田空港、六本木ヒルズ、築地市場だ。

 12月8日にグローバル1周年を迎えたUberEATSは、日本での展開も順調だ。スタートダッシュを図るために「ワンコイン(500円)キャンペーン」を実施し、認知度を上げた。Uber Japan高橋正巳執行役員社長によると、「UberEATSで初めてUberを知ったユーザーも多い」という。

 特に好評だったのはクリスピー・クリーム・ドーナツと行った「UberEATS × クリスピー・クリーム・ドーナツ Thank you Doughnuts」キャンペーンだ。ドーナツ6個、コーヒー、オリジナルグッズをセットにした商品を、各日100セット用意。初日は100セットが2分で売り切れた。


提携レストランにはクリスピー・クリーム・ドーナツも

 他の出前サービスとの違いは、アプリ操作の快適さと、参加している店舗の充実だ。「これまで出前サービスをしていなかったレストランもUberEATSに参加している。レストランからは売り上げアップにつながると好調。月間売上の20%がUberEATSだというレストランも出てきている。また、ユーザーには食の楽しみ方を新たに提案できている」(高橋社長)。スタート直後は東京都渋谷区・港区エリアのみが対応地域だったが、12月12日からは新宿区、世田谷区、千代田区の一部エリアに拡大した。

新しい働き方を生むシェアリングエコノミー

 Uberのビジネスモデルは、シェアリングエコノミーという考え方に属する。シェアリングエコノミーとは、個人が保有する資産(スキルなども含む)の貸し出しを仲介するサービスで、貸主は資産を活用して収入を得ることができ、借主はモノやスキルを所有することなく利用ができるというメリットがある。

 総務省によると、シェアリング・エコノミーはシリコンバレーを起点にグローバルに成長しており、2013年には約150億ドルの市場規模が、2025年には約3350億ドル規模に成長する見込みであるという。


Uberの日本展開について語るUber Japan高橋正巳執行役員社長

 ……と言われても、いまいちピンと来ない読者の方も多いかもしれない。分かりやすく、AさんがUberEATSでどのように収入を得るのか、ストーリーで紹介しよう。

 30代主婦のAさん。子どもが生まれたことで仕事を辞めたが、そろそろ働きたいと思い始めている。しかし、パートタイムなどのシフト制では、「1週間に3日以上、1日3時間以上」といった条件があったり、子どもの発熱などのアクシデントに柔軟に対応できなかったりと、働きづらい状態にあった。

 UberEATSを知ったAさんは、ドライバーとして働く申し込みをした。特別な資格は必要ない。アプリをダウンロードして、働けるタイミングになったらステータスを「オンライン」にするだけ。アプリにリクエストが届く仕組みだが、応答してもしなくてもいい。1件で使う時間は30分未満。1日何件配達するかはその都度自分で決められる。働き方を自分でコントロールできるのが大きなメリットだ。

 Aさんのように、UberEATSでドライバーとして働いているのは、日本では1000人程度。年齢は18〜69歳と幅広く、“本業”は会社員、自営業、学生、アーティスト、役者などさまざまだ。そのうち15%が女性で、午前11時から午後3時の間に稼働する人が多いという。

 サービススタートからしばらくは給料振り込みに関するトラブルがあったが、現在多くが解消されている。

今後のUberと、その先の未来

 Uberは、一般層向け配車サービスUberXの日本普及を急いではいない。UberBLACK、UberEATS、実証実験などで認知度を上げ、業界関係者との関係を悪化させないように事業を展開している。Uberが指標とする数字は東京オリンピックが開催される2020年だ。

 2016年開催のブラジル・リオオリンピックでは、“特需”があった。リオはオリンピック前にサービススタートしたが、国内の利用者は当初大きく増えなかった。しかし、オリンピック期間中に爆発的に成長。利用者の多くは、自国の移動手段でUberを利用している外国人観光客だった。利用者の需給の変化に合わせてタクシー運転手の数を調節するのは容易ではないが、ドライバーが自身で仕事のタイミングを選べるUberならそれが可能になる。

 既に国外で展開している“その先の未来”についても紹介しておこう。

 米サンフランシスコ市内でサービスを開始しているのが「UberPOOL」だ。類似の経路を使う他の利用者とマッチングする相乗りサービスで、一般的な「UberX」よりも料金が安くなる。見知らぬ人と同乗することへの抵抗感は米国でも強いが、若い層を中心に利用者が増えてきているという。また、UberPOOLを利用した場合、UberXよりも交通量が減るという結果も出ている。

 また、自動運転に関する実験も進めている。Google、テスラモーターズ、トヨタ自動車など、世界各国の自動車メーカーが取り組んでいる分野だ。2016年9月には米ピッツバーグで実証実験を開始。8月に自動運転トラックの技術を持つOttoを買収し、10月に完全自動のデリバリーサービスの実験を行った。

 Uberの日本展開は、他国と比べると非常に遅れている。“ライドシェア”という考え方自体も多くの日本人にとってはなじみのないものだ。しかしその間にも、シェアリングエコノミーから始まったビジネスは進化を続けている。そう遠くない間に、日本はこの分野において“周回遅れ”になってしまうかもしれない。

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