悪夢の「マツダ地獄」を止めた第6世代戦略:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
一度マツダ車を買うと、数年後に買い換えようとしたとき、下取り価格が安く、無理して高く下取りしてくれるマツダでしか買い換えられなくなる。その「マツダ地獄」をマツダ自身が今打ち壊そうとしているのだ。
「マツダ地獄」という言葉がある。一度マツダ車を買うと、数年後に買い換えようとしたとき、下取り価格が安く、無理して高く下取りしてくれるマツダでしか買い換えられなくなる。その結果、他社のクルマに乗り換えできなくなることを表した言葉だ。発想の原点は「無間地獄」だろう。
誰も得をしていない
なぜマツダはそんなひどい言われ方をしていたのだろう? マツダは新車の販売が下手だった。ブランドバリューが低いからクルマを売るとき、他社と競合すると勝てない。あるいは勝てないという強迫観念を営業現場が持っている。それを挽回してマツダ車を買ってもらうために、分かり易いメリットとして大幅値引きを行う。しかし値引きが常態化して新車の実売価格が下がれば、好き好んで新車より高い中古車を買う人はいないので、新古車でさえ値段が下がる。そこから先はドミノ倒し式の崩壊だ。つまり新車の値引きは中古価格の暴落を生む。しかも新車以上に中古車はブランドイメージで値段が変わる。
そうなると、仮に新車から5年乗って「そろそろ新しいクルマに……」と思っても、下取り価格が低くて買い換えを躊躇(ちゅうちょ)するユーザーも一定数出てくる。元々が新車値引きに釣られて買ったユーザーなので、経済的にもあまり豊かとは言えない。そういう人が低い下取り価格に直面すれば「もう少し乗るか」という判断になりがちだ。
そうやって年式がどんどん落ちていき、さらに査定額が下がる。結局買い換えの踏ん切りが付くのはもうクルマの商品としての寿命が尽きた後。そんなときに下取り車に何とか値段を付けてくれるのはメーカーが下取り促進費を負担するマツダだけ。だからまたマツダになる。そして手元不如意のためまた大幅値引きを要求する。
「ずっとマツダに乗ってくれるならいいじゃないか」と言えないのは、それが常に強い値引き要求と買い換えサイクルの長期化という問題を含んでいるからだ。デフレスパイラルにも似たネガティブな輪廻が繰り返されており、長期的に見ればユーザーも販売店もメーカーも誰も得をしていない。
関連記事
- マツダ独自のデザインを見せるための塗装
クルマに塗装をする最大の理由は錆びを防ぐためだ。けれども、塗装は商品のデザイン価値を高める効果もある。そのことについて常識を超えた取り組みを見せているのがマツダだ。 - 地味な技術で大化けしたCX-5
マツダはSUV「CX-5」をフルモデルチェンジした。「すわ第7世代の登場か!」と勢い込んだが、そうではないらしい。マツダの人はこれを6.5世代だと意味あり気に言うのだ……。 - 「常識が通じない」マツダの世界戦略
「笑顔になれるクルマを作ること」。これがマツダという会社が目指す姿だと従業員は口を揃えて言う。彼らは至って真剣だ。これは一体どういうことなのか……。 - 「マツダ ロードスターRF」はロードスターなのか?
ロードスターRFの試乗を終えて戻ると、マツダの広報スタッフが「良いクルマでしょ?」と自信あり気に話しかけてきた。そんな新たなモデルを12月末に発売する。ロードスターとしてRFは異端と言えるだろう。 - マツダがロータリーにこだわり続ける理由 その歴史をひもとく
先日、マツダの三次テストコースが開業50周年を迎え、マツダファンたちによる感謝祭が現地で行われた。彼らを魅了するマツダ車の最大の特徴と言えば「ロータリーエンジン」だが、そこに秘められたエピソードは深い。 - “小さな高級車”幻想に挑むデミオとCX-3
マツダがデミオとCX-3の商品改良を行った。改良ポイントは大きく3つあるが、そもそもCX-3は単純にデミオのコンポーネンツを使っているというだけでなく、ボディも共用している。SUVでありながら室内高はデミオと変わらない。なぜそうしたクルマが作られたのだろうか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.