デジタル化で“生き生き”接客 町のクルマ屋さんの事例:目的の共有がカギ(1/3 ページ)
デジタルテクノロジーをうまく使いこなせば、業務を効率化し、サービスを向上させることができる。しかし、導入しただけで全てがうまくいくわけではない。大切なのは、明確な目的と、その目的を会社全体に浸透させることだ。埼玉県で自動車整備などを手掛ける杉戸自動車の場合は……。
デジタルテクノロジーを業務に取り入れる目的は何だろうか? 導入しただけで効率化やサービス向上が実現できるとは限らない。明確な目的意識を持って使いこなさないと、宝の持ち腐れになるかもしれない。埼玉県杉戸町で自動車整備や板金塗装などを手掛ける杉戸自動車は、「お客さまのためになるサービス」を目的に、業務支援システムを導入してきた。泰楽(たいらく)秀一社長に、その狙いや試行錯誤について聞いた。
接客サービスの品質を一定に
杉戸自動車は、いわゆる「町のクルマ屋さん」だ。祖業の板金塗装をはじめ、車検整備、新車・中古車販売、自動車保険、レンタカー、ロードサービスなど、あらゆる自動車サービスを提供。約1万2000人の顧客を抱える。泰楽社長は2代目。父から会社を引き継ぎ、21人の従業員を率いている。
初めて見積書作成ソフトを導入したのが20年以上前。それ以降、時代の流れに合わせて業務をデジタル化してきたが、失敗もたくさんあった。泰楽社長は「システムで良くなるだろうとモノだけ買っても、社員に思いが伝わらなければ使われない。便利なものもほこりをかぶる」と語る。
社内に浸透させるのに苦労したものの1つが、2015年に導入したタブレット端末だ。「タブレットを使って、生き生きと接客するイメージだけはあった」ものの、いざ現場に投入すると、タブレットを使った接客方法が分からない。そんなスタッフらに意義や使用方法を繰り返し伝え、浸透するまでには半年を要した。
導入したのは、自動車アフターマーケット向け業務アプリ開発のブロードリーフが提供する、タブレット型業務支援ツール「Carpod Tab(カーポッド・タブ)」。車両ナンバーを入力すると、入庫履歴やこれまでの作業内容、前回の来店時に提案した内容などを閲覧できる。このシステムを導入した目的は、「お客さまを迎えるときに名前を呼ぶことと、前回の作業内容を伝えながら接客すること」。タブレット端末はそのための“道具”にすぎない。
応対するスタッフによってサービスの質が異なってはならないが、スタッフが全ての顧客情報を記憶することは難しい。システムを使えば、顧客を店頭で迎える前に、入庫した車両のナンバーを入力するだけで必要な情報を入手できる。個人の能力や顧客との関係性によるサービスの差を縮小することが可能だ。
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