なぜ社長は自分を棚に上げて「スゴい人になれ!」と叫ぶのか:常見陽平のサラリーマン研究所(1/3 ページ)
4月は何かと社長のスピーチが話題となる季節。このスピーチが味わい深いのは、自分のことを棚にあげて「スゴイ人になれ!」と叫んでいることである。
4月は何かと社長のスピーチが話題となる季節である。なんせ、入社式に新年度のキックオフと、社長があいさつをする機会が多い。これがなかなか香ばしく、味わい深い。意識高い系ウォッチャーとしては、たまらないシーズンである。
よくメディアで話題になるのは、大手企業の入社式における社長スピーチだ。新聞では各業界のトップクラスの企業、社長交代があった企業、不祥事を起こした企業や経営再建中の企業の入社式が紹介される。2017年は案の定、電通の入社式が取り上げられていた。
この入社式スピーチが味わい深いのは、自分のことを棚に上げて「スゴい人になれ!」と叫んでいることである。「アントレプレナー精神を持て」「イノベーションを起こせ」「会社にしがみつくな」「出る杭になれ」――などだ。まるで、昔の『ドラゴンボール』をはじめとする『週刊少年ジャンプ』の漫画にありがちな「強さのインフレ」状態である。
大抵、大手企業においては、「グローバル化」「危機感」「プロ意識」「コンプライアンス」「チャレンジ精神」を新入社員に訴えているが、社長はじめ、先輩たちがこれを意識して努力していたら、もっと業績がよくなったのではないかと思ってしまう。これを新入社員に期待するのは、酷ではないか。『ドラゴンボール』を例に言うならば、同期でもトップ出世した、いかにもグローバルエリート風の主人公「孫悟空」だけでなく、万年ドメスティック平社員的な、「クリリン」への配慮も怠らないでいただきたい。
入社式での社長の「お気持ち」で、ツッコミたくなるパターンをまとめると以下のようになる。
・「グローバルに活躍」「イノベーションを起こせ」など強さのインフレを起こすパターン→(まずは、社長が頑張れ)
・危機感を煽(あお)ろうとして、悲壮感しか伝わらないパターン→(業績が悪い、だから頑張れと言いたいのだが、むしろヤバさしか伝わらないという……)
・新聞の社説を丸パクリパターン→(大手企業ですらたまにあったりする。しかし、新入社員は新聞を読んでいないのでバレない)
・難しいことを言おうとして、間違えるパターン→(英語を使ってみたが、発音を間違えてしまい逆に普段から英語にふれていないことがバレてしまう)
・ブラック企業だとバレてしまうパターン→(「お前らは、クズだ!」と叫ぶ企業があったりする。ここまではいかなくても「君たちはまだ1円も利益に貢献していない」なんてことを言い出す社長も)
・「出る杭は伸ばす」と煽り、新人を誤解させるパターン→(新入社員歓迎会で、本当に無礼講で大暴れしてしまう)
関連記事
- 「今年の新人は◯◯型」シーズンに思うこと
世間で話題になる「今年の新人は◯◯型」なるものをうのみにしてはいけない。世間が騒ぐ新人像ではなく、自社の新人を分析すること。これこそが、今すぐ使える処世術なのだ。 - 僕ら“40男”が抱えているこれだけの憂鬱
「就職氷河期世代」「ロスジェネ」とも呼ばれる世代が40代になり始めている。昭和という時代の恩恵を受け、楽しい10代を送ったものの、社会の変化に常に直面しつつ生きてきた世代だ。常見陽平氏がさまざまな憂鬱(ゆううつ)を抱えている“40男”に提案したいこととは? - 名言や社訓に洗脳される若き老害たち
「若き老害」――。自分自身も若いのに、後輩や部下をマウンティングする社員を指す。特に顕著なのは「名言」や「武勇伝」などを押しつけるマウンティングである。その実例や背景について考えてみる。 - なぜ日本人は“世代論”が大好きなのか
常見陽平が職場にはびこる「若き老害」という現象を全6回で読み解くシリーズ。第2回は日本人が大好きな「世代論」「世代闘争」が若き老害を生み出している……という話。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.