歴代ロードスターに乗って考える30年の変化:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
3月上旬のある日、マツダの初代ロードスターの開発に携わった旧知の人と再会した際、彼は厳しい表情で、最新世代のNDロードスターを指して「あれはダメだ」とハッキリ言った。果たしてそうなのだろうか……?
3月上旬のある日、マツダのイベントで懐かしい人に再会した。初代ロードスターの開発に携わり、今はマツダを退職してジャーナリストとして活動している人だ。
ありきたりな挨拶が終われば、話題はやはりロードスターのことになる。彼は、厳しい表情で、最新世代のNDロードスターを指して「あれはダメだ」とハッキリ言った。
当然ながら、完璧なクルマは歴史上一台も存在しないので、筆者はNDが完璧だとは言わない。が、少なくとも、現在の世界のスポーツカーの中で、ベストのうちの1台に挙げることを躊躇(ためら)わない。もちろん「スポーツカーとは何か?」というある種の神学論争において、人それぞれのスポーツカー像は異なり、満場一致になることは考えられない。だが、それでもベストスポーツカーにロードスターを推すのは極めて順当だ。本命鉄板。そう言ってもいいはずだ。
それだけに驚いた。「どこがそんなにダメなんですか?」と問うと、「走っている間中、接地感が希薄だ」と彼は即答した。イベントもお開きとなり、参加者が三々五々帰って行く姿を見送りつつ、筆者が要領を得ない顔をしているのを見て、彼は少々機嫌の悪い表情になり、「もっと厳しくクルマを見ないと」、そう言い残して部屋を後にした。
道のりの再確認
正直なところ、彼の言葉がよく分からなかった。少々話は込み入ってくるが、それはこういうことである。NDロードスターの接地感は確かに決して高くない。接地感、あるいは路面をグリップする安心感に焦点を当てれば、それは先代のNCロードスターの方が明らかに能力が高い。だから「先代に比べて」という意味なら、彼の言葉はとても正しく、疑問の余地はない。
しかしである。彼は初代ロードスターの開発において高い接地感よりむしろドリフトコントロール性を重視していた人だと記憶している。後に主査になる貴島孝雄氏が理想とする踏ん張るスポーツカーと正反対の志向を持っていて、サスペンションのセッティングの方向性では対立して相当にかんかんがくがくだったとも伝え聞いている。指向的に接地性を重視しない彼が、なぜそこまで接地感不足を厳しく言うのか? その疑問がまず1点だ。
そして筆者の記憶の中で、初代ロードスターは決して豊かな接地感を持つクルマではなかった。もし彼が、初代ロードスターの出来そのものに対して否定的なのであれば、今回の発言も分からないではない。しかし、そういう話はついぞ聞いたことがない。ロードスターを熟知しているはずの彼がなぜ新型を手厳しく批判したのか、もう少し詳細に話を聞いてみたかったが後の祭りである。
この疑問をきっかけとして、筆者はマツダから歴代ロードスターを借り出した。もちろんこれまでにもすべてのモデルに乗ったことがあるが、改めてそれを乗り比べて、もう一度記憶を確認し、NDロードスターまで続いてきた道のりを再確認すべきだと考えたのだ。
昨年出版した拙書「スピリット・オブ・ロードスター」の取材では、NDロードスターの開発に当たった25人のエンジニアに28時間のインタビューを行った。その結果、明らかになったのは、ND型は初代NA型への原点回帰を強く志向しているということであった。そうなった理由ははっきりしている。「笑顔になれるスポーツカー」を目指すためだ。いく人かのエンジニアは「2代目(NB型)と3代目(NC型)で、われわれはそれを少し見失っていたかもしれない」とまで言った。NDというマツダの答えが出た今、彼らが言っていたことをもう一度確認してみたくなった。
関連記事
- 悪夢の「マツダ地獄」を止めた第6世代戦略
一度マツダ車を買うと、数年後に買い換えようとしたとき、下取り価格が安く、無理して高く下取りしてくれるマツダでしか買い換えられなくなる。その「マツダ地獄」をマツダ自身が今打ち壊そうとしているのだ。 - 「常識が通じない」マツダの世界戦略
「笑顔になれるクルマを作ること」。これがマツダという会社が目指す姿だと従業員は口を揃えて言う。彼らは至って真剣だ。これは一体どういうことなのか……。 - 「マツダ ロードスターRF」はロードスターなのか?
ロードスターRFの試乗を終えて戻ると、マツダの広報スタッフが「良いクルマでしょ?」と自信あり気に話しかけてきた。そんな新たなモデルを12月末に発売する。ロードスターとしてRFは異端と言えるだろう。 - 地味な技術で大化けしたCX-5
マツダはSUV「CX-5」をフルモデルチェンジした。「すわ第7世代の登場か!」と勢い込んだが、そうではないらしい。マツダの人はこれを6.5世代だと意味あり気に言うのだ……。 - マツダがロータリーにこだわり続ける理由 その歴史をひもとく
先日、マツダの三次テストコースが開業50周年を迎え、マツダファンたちによる感謝祭が現地で行われた。彼らを魅了するマツダ車の最大の特徴と言えば「ロータリーエンジン」だが、そこに秘められたエピソードは深い。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.