スマホアプリに医療保険が下りる時代が来た:デジタルヘルス革命(1/3 ページ)
病院に行って処方される医薬品に保険が適用される。これが今や薬だけでなくスマホアプリにも適用されることをご存じだろうか? 既に日本でも実績が出始めているのだ。
スマートフォンアプリを使って治療が受けられる、しかも薬と同じように医療保険が適用される――。
いよいよ日本でもデジタル医療(デジタルヘルス)が本格化しようとしている。
2014年11月に施行された改正薬事法によって、ソフトウェア単体でも「医療機器プログラム」として規制の対象となった。従来はソフトウェアだけでは薬事法の規制対象とならなかったため、ハードウェアに組み込んだ形だった。これにより、医療用のスマホアプリも保険の適用が可能となったのだ。
「既に米国では先行していて、医療用ソフトウェアは2024年に9兆円という巨大な市場になると言われています。日本でもチャンスは広がるはず」と意気込むのは、医療アプリ開発ベンチャー、キュア・アップの佐竹晃太社長。慶應義塾大学医学部を卒業後、呼吸器内科医として医療現場で5年働き、海外留学を経て、2014年に同社を創業した。
禁煙治療の現状を変える
同社が開発するアプリは禁煙治療向けの「CureApp禁煙」。現在、8施設で臨床研究中で、今年夏から秋にかけて国の治験が始まる予定だ。治験とは医薬品や医療機器の製造販売に関して、客観的な見地からその治療効果を試験し、承認するために必要なプロセス。その後、早ければ19年に薬事承認を得てリリースとなる。
この禁煙治療アプリは、ユーザーである患者が記入する毎日の禁煙状況や体調、服薬状況などの情報に基づき、各自にカスタマイズした指導内容やアドバイスがチャットベースで自動で送られるというもの。
世の中には似たような健康管理アプリや健康指導アプリは存在するが、それらと一線を画すのは、アプリに内蔵されているガイダンスのコンテンツやアルゴリズムが、既に医学界で効果が証明されている論文、ガイドラインなどを基準に作られていることだという。「何となくその辺のWeb記事を切り貼りして情報を提供しているのとはわけが違う。アカデミックな知見をアプリに実装しているのです」と佐竹氏は胸を張る。
このアプリは従来の禁煙外来での治療を補完するものと位置付ける。一般的な禁煙外来は、月に1回程度、病院で医師との面談があり、そこでアドバイスを受けたり、ニコチネルパッチといった薬を処方されたりしているが、実はそこから次の通院までの1カ月間が患者にとっては“地獄の苦しみ”だという。医学的には「ニコチン依存症」と言われるように、たばこに含まれるニコチンは依存性が強く、患者は孤独な戦いを強いられるからだ。
佐竹氏によると、自力で禁煙に取り組んだ場合、1年後に成功した人はわずか5〜10%。約9割がたばこを止めたくても止められないというジレンマを抱えている。禁煙外来の場合、1年後には3割弱と成功率は高まるが、禁煙外来は医療費が6万円以上(個人負担が約2万円)かかる。それだけのお金を使って7割の人が止められないという現状は無視できない。
「主な原因は分かっていて、ニコチンの心理的な依存です。身体的な依存による離脱症状などに対しては薬が効くのですが、心理的な依存については難しい。病院にいるときはドクターや看護師がカウンセリングしてくれて安心感を得ますが、自宅に戻り、一人になってからが辛い。アプリによって毎日フォローしてあげることで、こうした心理的不安を解消し、従来の治療成績を、4割、5割と伸ばそうというのが我々の考えです」(佐竹氏)
このアプリは現状の禁煙外来をすべて置き変えるのではなく、医師による診療はこれまで通りで、それだけではカバーしきれない部分を補うことが目的である。
禁煙治療アプリに続いて、キュア・アップでは東京大学医学部附属病院と共同で、脂肪肝治療のためのアプリの開発を進めている。
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