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トヨタとマツダが模索する新時代池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)

トヨタとマツダが8月4日夜に緊急会見を開いた。その内容は両社が極めて深い領域での資本業務提携を行うもので、正直なところ筆者の予想を上回るものだった。

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 思い起こせば2015年5月、トヨタ自動車とマツダは突然、両社の協力関係構築をスタートするという記者会見を開いた。以来約2年、提携の内容は厳重に秘匿(ひとく)され、ごく限られた情報が漏れ伝わるだけだった。両社の役員級のメンバーが頻繁に往き来して、協議を重ねていることは聞き及んでいたが、詳細が語られることは無かった。

 17年8月4日、再び緊急合同記者会見が開かれた。通知メールが届いたのが15時10分。明らかに東京証券取引所の後場が閉まる15時を見越して送られたメールだ。しかも金曜日。土日は取引所が動かないため、相場の混乱を回避できる。月曜朝には既に世間の知るところとなって、誰も抜け駆けができない。逆に言えば、金曜15時過ぎの緊急会見のお知らせは、それだけ重要な内容が発表されることを意味している。

資本提携を発表するトヨタ自動車の豊田章男社長(左)とマツダの小飼雅道社長
資本提携を発表するトヨタ自動車の豊田章男社長(左)とマツダの小飼雅道社長

 会見の内容は、トヨタとマツダが極めて深い領域での業務提携を行うもので、正直なところ筆者の予想を上回るものだった。同日発行されたリリースから、簡単に概略を抜き出して見よう。

 まずは株式の相互取得だ。総額500億円の株式を取得し合う。トヨタはダイハツに対してもスバルに対しても、提携先の株式を一方的に取得しており、提携先に株式を取得させたことはない。極めて異例の事態だと言える。これは今回の提携の深さを象徴的に表すものだと言える。後述するマツダの小飼雅道社長の言葉を借りれば「胸襟を開いてお互いを知り、頻繁な交流により多くを学び、お互いが刺激しあえる状態であることを確信」したことの現れである。

 以下、大きく4つの分類で提携の内容を整理しよう。

(1)米国での完成車の生産合弁会社の設立

(2)電気自動車の共同開発

(3)コネクティッド・先進安全技術を含む次世代の領域での協業

(4)商品補完の拡充

 (1)に関して言えば、自動車メーカーの生産工場は企業秘密の塊である。特にコモンアーキテクチャーによる混流生産の細かいノウハウなど、他メーカーには見せられない。トヨタ側にもマツダ側にも伏せておきたい独自技術がある。それを全部見せてしまうことになる。

 (2)に関しては、基礎的な部分ではトヨタがリードすることになるだろう。MIRAIやプリウス系各車に採用されているモーターやバッテリーの技術は世界の最先端であり、トヨタが開発した基本コンポーネンツはマツダだけでなく、提携各社が共用するはずである。ただし、それらを組み合わせて同じクルマのエンブレム違いができるという意味ではない。

 マツダの小飼社長が記者会見で「走る歓びを先鋭化させたクルマ作りと、マツダらしいブランド価値経営により、小さくともより際立つ独自のブランドを築き上げていきます」と述べた通り、トヨタが開発した基礎コンポーネンツを使って、マツダらしい走りを構築するはずである。スバルやダイハツも同様のことを求められるはずで、今後のトヨタアライアンスにおけるクルマ作りのあり方を示唆するものになっている。独自のエンジン、独自のシャシーでなくてはブランドに即したクルマが作れないということでは立ちゆかない。アライアンスの中で共用できるものを共用しつつ、ブランドの独自性を際立たせていくことこそ求められる。

 (3)についてもトヨタが主導権を握ることになる。コネクティッドと先進領域に関しては、バグ出しという意味でも、リアルタイム情報共有という意味でもビッグデータがその完成度を左右する可能性が高い。当然最大の販売台数を持つトヨタが強味を持つことになる。しかしトヨタにとっても、アライアンス各社の販売台数を合計してビッグデータに積み上げられる価値は当然大きい。

 (4)は、(2)とも関連してくるが、相互のラインアップを補完するいわゆるOEM供給(相手先ブランド供給)から、コンポーネンツの共用までさまざまな深度の協力がスタートするだろう。既にトヨタは北米でデミオを「ヤリスiA」として販売しているが、日本で小型商用2ボックスバンをトヨタからマツダに供給することが決まっている。はっきりと車種名が挙げられているわけではないが、常識的に考えてそれは営業バンの覇者であるプロボックスだろう。

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