マクロミル創業者が再び起業した理由:夏目幸明の「経営者伝」(1/3 ページ)
自ら事業を立ち上げ、会社を成長させていく起業家たち。経済ジャーナリストの夏目幸明氏がマクロミルの創業者、杉本哲哉氏の創業エピソードをお伝えする。杉本氏が再び起業し、「antenna*(アンテナ)」を立ち上げることになった背景とは。
ネットリサーチの国内最大手、マクロミルを創業した杉本哲哉氏。創業からわずか5年で同社を東証1部上場へと導いた。現在はキュレーションアプリ「antenna*(アンテナ)」を運営するグライダーアソシエイツの社長を務めている。
本連載では、そんな彼の起業のきっかけや、上場後の組織マネジメントなどについてお伝えしてきた。最終回は、杉本氏が再び起業し、「antenna*」を運営することになった背景に焦点を当てる。
2度目の起業を決断
杉本氏は、マクロミルを東証1部に上場させた翌年の2006年に社長を退任した。理由は「会社を社会の公器にするため」だという。カリスマオーナーが率いる企業は構造的に脆(もろ)い。オーナー次第で、会社が一気に傾くこともある。永続性を求めるなら、社員、役員が全員で運営する体制が望ましいのだ。
ただ、杉本氏はグライダーアソシエイツを12年に起業する前に、マクロミルに会長兼社長として一度復帰している。杉本氏の退任後、リーマンショックによる景気後退などもありマクロミルの業績が伸び悩み、周囲の要望もあっての復帰だった。そしてこの時、彼は「時代の流れ」を実感した。
「クライアントが消費者調査をしようとマクロミルへ依頼しても、若い人からの回答が集まりにくくなっていたんです。ユーザーが使用するデバイスがスマホに変わっていて、PCを使わなくなっていたからです。しかも、簡単な調査ならクライアントのSNSやオウンドメディアでもできるようになっていました」
杉本氏は考えた。ユーザーがアプリを使うようになったらポータルサイトを使う人は減り、目的のアプリを直接開くようになるだろう。すると、広告のあり方も変わる可能性があると。
「政治経済、スポーツ、社会事件など、人はネットでさまざまなニュースを読みますよね。これを集めたキュレーションアプリがあったらどうか、と思ったんです。出版社や新聞社が提供する質のいい記事がまとまっていて、使う側は、さまざまな記事に触れることができます。一方、アプリの提供側は『この記事を読んだ人はこんな特性を持っている』と認識でき、ピンポイントで広告をマッチングさせるんです」
誰にでも「妄想」が爆発するときがある。これをそのまま儚く終わらせるか、具現化するかが人生を大きく分けるのかもしれない。杉本氏は、やはり試す側だった。
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