パリ協定の真実:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
世界中で内燃機関の中止や縮小の声が上がっている。独仏英や中国、米国などの政府だけにとどまらず、自動車メーカーからも声が上がっている。背景にあるのが「パリ協定」だ。
今、世界中で、内燃機関の中止や縮小の声が上がっている。独仏英をはじめ、北欧や中国、米国などの政府だけではなく、自動車メーカーからも声が上がっている。
背景には「パリ協定」がある。パリ協定を定めた「パリ会議」は、正式には「第21回 国連気候変動枠組み条約締約国会議」という。長すぎて面倒なので、多くのメディアでは、開催地の名前を取ったパリ会議か「COP21」のように、英文の頭文字に会議の開催次ナンバリングを加え呼ばれることが多い。
パリ協定成立まで
国連気候変動枠組み条約締約国会議の成り立ちは、国連を母体とし、地球温暖化対策の国際的な枠組み構築を目的としている。第1回は1995年のベルリン会議(COP1)。1997年の京都会議(COP3)では「京都議定書」によって初めて具体的な各国の削減基準が策定された。歴代会議では京都議定書と同様に重要なルールが定められたことが3回あり、京都(COP3)、コペンハーゲン(COP15)、そしてパリ(COP21)となっている。
実質的な規制のスタートとなった京都議定書だが、このとき米国と中国は削減目標に対し「経済成長へのマイナス」を理由に批准を拒否した。全世界の温室効果ガスの40%を排出する米中2カ国が批准しなければ、下位の国が努力してもその効果は薄い。そのため米中はその身勝手さを非難されてきた歴史がある。
問題を先送りにしてきたこの2大国が、2015年のパリ会議でようやくこれに正式に批准して、温室効果ガス問題の世界的解決へ向けて歩き出した。
という背景にも関わらず、トランプ米大統領が突然宣言したパリ協定からの離脱は、長年積み重ねて世界全体での協調に至った地球温暖化対策への大幅な逆行を意味している。
では、そのパリ協定の内容はどんなものか? パリ協定第2条第1項(a)では「世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前よりも2度高い水準を十分に下回るものに抑える」とし、さらなる努力目標にも言及している。「世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前よりも1.5度高い水準以下に制限するための努力を継続すること」。
その方法はトップダウン式で決めた京都議定書とは異なり、各国で検討策定することになっている。それは先進国のみに努力目標を設定し、地球全体での二酸化炭素(CO2)削減に効果が薄かった京都議定書の方式を改め、国連加盟193カ国すべてに適用しようという姿勢である。2017年8月現在締結国は159カ国に達し、世界の温室効果ガス排出量の約86%をカバーした。新聞報道によれば、マクロン仏大統領は「プランB(代替案)はない。地球Bはないからだ」「目標を下げるような再交渉はしない」と非常に明快なメッセージを発信している。とても分かりやすい。
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