トヨタとマツダとデンソーのEV計画とは何か?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)
かねてウワサのあったトヨタの電気自動車(EV)開発の新体制が発表された。トヨタはこれまで数多くの提携を発表し、新たなアライアンスを構築してきた。それらの中で常に入っていた文言が「環境技術」と「先進安全技術」である。
9月28日、かねてウワサのあったトヨタの電気自動車(EV)開発の新体制が発表された。トヨタは過去2年間にわたり、数多くの提携を発表し、新たなアライアンスを構築してきた。それらのアライアンスの中で、常に入っていた文言が「環境技術」と「先進安全技術」である。
それらが意味するのは、少し乱暴に整理すれば以下の通りだ。本来は【環境】には内燃機関の熱効率改善なども入ってくるが、ひとまず提携の中で主たる意味で何を言わんとしていたかを前提に整理する。
【環境】マイルドハイブリッドからEVまでの幅広い意味での「電動化」
【先進】車両間通信機能を搭載した「コネクティッドカー」とそこで収集されるビッグデータの活用法
【安全】運転支援から自立無人運転までの幅広い「自動運転」
トヨタ、ダイハツ、スバル、マツダ、スズキという1600万台アライアンスの中で、それぞれの独自性を保ちつつ、得意ジャンルを生かしながら、環境対策と安全/自動化を推進するために必要な体制の整備が急ピッチで進められてきた。これらの中で、開発コストが高く、かつ販売台数が見込めないEVは投資の回収が最も難しく、利益につながらない。しかもユーザーにとっても充電問題など利便性が高いとは言えない。そのために先送りになってきたのは事実だ。
しかし、ナンバー1マーケットの中国と、ナンバー2マーケットの北米で、ゼロエミッションビークルの販売を義務付けた規制の動きが始まった。例えば、内燃機関より二酸化炭素(CO2)排出量が多い石炭火力発電方式が8割と言われる中国で、EV化すると環境改善に逆効果がなのはあくまでも理想の議論。自動車メーカーはリアルワールドで戦う以上、悪法だろうが何だろうが従うより仕方ない。法律に従おうとすればEVを手駒として加えなければならなくなった。そこへ向けた戦略が、恐らくトヨタ・アライアンスの本命の1つであるEV開発のスキームのEV C.A.Spirit株式会社の発足だ。
相変わらず世間では「トヨタはEVに出遅れた」という都市伝説のような論調が猛威を奮っているが、あまりにもバカバカしい話である。
多分それはハイブリッド(HV)とEVが全く別の技術だと認識されているからで、そう信じている人は何を見てももう先入観から抜け出すことができないのだと思う。
端的に言って、トヨタのHV技術は完全にEVの技術を内包している。あらゆるHVにおいてとは言わないが、少なくともトヨタにとっては「EV技術」は「HV技術」の部分集合でしかない。
プリウス系のHV技術はモーターのみでの走行が可能である。さらにプリウスPHVではその電動走行性能がかさ上げされており、電気のみでの走行距離は60キロ以上となっている。プリウスPHVからエンジンを下ろせばEVであり、あとはせいぜいバッテリーの容量をどこまで上げるかの話でしかない。
ハイブリッドやEVの走行用のモーターやバッテリーは普通のクルマ(12V)とは比較にならない高電圧になっている。プリウスの駆動用バッテリーは240Vだが、駆動システム内部では700Vまで昇圧される。この高電圧がEV走行時の性能を支えているので、電圧は上げざるを得ない。
しかし一方で、整備時の危険度は従来の12Vの自動車とは比較にならない。こうした高電圧システムのメインテナンスを安定的に引き受けられるディーラーの設備と整備士の育成など、インフラ整備を考えれば、すでに過去1000万台のハイブリッドを販売してきたトヨタは、全世界にそうした整備インフラを構築済みで、そのアドバンテージは計り知れない。作りさえすれば、販売網やメインテナンス網なんてなくても売れると考える人はともかく、まともに経済を語るならば、販売と補修の話を置き去りにできるはずがない。そこでの圧倒的リードを無視するのは単純化のしすぎである。
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