漫画『カレチ』『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』が描く、国鉄マンの仕事と人生:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
国鉄末期の旅客専務車掌を主人公に、当時の鉄道風景と鉄道員の人情を描いた漫画『カレチ』。その作者の池田邦彦氏に、鉄道員という仕事について話を聞いた。
国鉄末期の「旅客専務車掌」を主人公に、当時の鉄道風景と鉄道員の人情を描いた漫画『カレチ』。その作者、池田邦彦氏に、鉄道員という仕事について伺った。最新作『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』は、明治後期の鉄道が舞台だ。鉄道員は仕事の誇りと責任に満ちあふれていた。
漫画『カレチ』は、講談社の雑誌『モーニング』で、2009〜13年に連載された。単行本は全5巻。近年の鉄道趣味がブームに終わらず、社会的認知に至る過程の時期だ。国鉄当時を懐かしむファン層を中心に、鉄道に興味を持ち始めた新しい鉄道ファン層も取り込んで話題になった。
カレチとは、国鉄の「旅客専務車掌」の電信略号だ。カは旅客、レチは「列車長」に由来し、車掌を示す。レチは運行管理も実施し、機関士と連携する車掌。カレチは旅客専務、つまり、乗客の案内、切符の販売などを専門とする。漫画『カレチ』の主人公は荻野憲二。国鉄大阪車掌区所属のカレチである。
『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』はリイド社の雑誌『コミック乱ツインズ』で連載中。10月13日に単行本の第1巻が発売された。鉄道ファン、池田邦彦ファン待望の新刊だ。舞台は明治30年代から。国が全国の私鉄を国有化し、国鉄時代を迎えた頃。主人公は鉄道官僚の島安次郎と機関士の雨宮哲人。日本の鉄道の未来を作っていく物語だ。
『カレチ』の主人公は車掌さん
――今回は、ビジネスパーソン向けの記事ということで、先生の作品に登場する人々の「仕事観」を伺います。『カレチ』『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』ともに魅力的な鉄道員が登場しますね。まずは『カレチ』の主人公、荻野車掌はモデルがいらっしゃいますか。
池田: 漫画家デビュー作品は、子どもたちを主役にした『RAIL GIRL〜三河の花〜』でした。第54回ちばてつや賞で大賞をいただいた。そこで、連載に向けた新作品を考えるときに、国鉄ってカッコいいですよって話になった。失われたプロ集団みたいなね。今でも国鉄色と呼ばれるように、当時の色の車両は実車も模型も人気なんですね。
国鉄で働くいろんな人を出そうかって思ったんですけど、誰か中心になる人が必要。そこで車掌さんに注目しました。列車運行の役割もあるし、お客さんと接するソフト面もある。鉄道のハードとソフトの両方に関わって、いろんなところに行く。具体的なモデルの人物はいません。でも、実際に車掌を経験した方の著書を参考にしました。壇上完爾さん、市川潔さん、坂本衛さん。
勤務地は大阪車掌区にしました。東京の車掌は南北方向に範囲が限られてしまうんですけど、大阪だと青森から鹿児島まで行くので。
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