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世界から見た大相撲問題の本当の「異常さ」世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

大相撲の暴行事件騒動が、まだくすぶっている。この問題、相撲に詳しくない外国人からはどのように映っているのか。カナダ人ジャーナリストに聞いたところ、相撲界の異常が浮き彫りに……。

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元名古屋高検検事長が県警幹部に電話

 もうひとつ「異常」なことは、警察にまつわる話である。報道によれば、11月30日に行われた日本相撲協会の理事会では、暴行事件について相撲協会に協力することを拒否している貴乃花親方と理事のメンバーとの間で緊迫したやりとりがあったという。

 その中で、出席者の1人が「県警に電話をしてみよう」と提案。外部理事で危機管理委員会の高野利雄委員長が、鳥取県警の幹部に直接電話を入れたという。サンスポによれば、元名古屋高検検事長の高野氏は県警幹部に電話し、「貴乃花親方が協会の聴取に協力すると、捜査の妨害になるのか?」と問うたというのである。しかも、「捜査幹部」はご丁寧に事件に直接関係のない第三者に対して「そちらの判断で決めてくれていい。聴取されても差し支えない」と述べたらしい。

 これは特に捜査においてプライバシーや人権問題、透明性・公平性などが広く議論されている昨今、世界的に見ても考えにくい話だ。まだ起訴されてもいない捜査中の事件について、部外者に捜査当局側の見解を個別に述べるのはいかがなものか。もっといえば、その内容うんぬんではなく、電話で部外者に対して捜査関連の話をする行為そのものが問題で、さらには、その見解が、別の組織(相撲協会の理事会)の意思決定のプロセスに影響を与えているというのにも違和感がある。

 そればかりか、突然「電話してみよう」とすぐに電話をできるのは、そこにもともと何らかの「関係性」が存在しているといった状態を想像してしまうのは筆者だけではあるまい。

 もっと言うと、高野委員長がホットラインで捜査に影響を与えることすらできるのではないかとの印象も与えかねない。もちろん、警察や相撲協会に言わせれば、そんなことは100%ありえないということになるのだろうが、誤解を招く行為なのは間違いない。

 この点についても、知人のカナダ人ジャーナリストは「相撲の協会の委員長は捜査関係者に直接電話して、電話一本で捜査について聞き出せるほどの力を持っているの?」とも指摘した。

 警察側はこの話が公になったことにどう感じているのだろうか。これを不可解に思ったのは、私たちだけではないだろう。

 もちろん相撲協会に悪気はないだろうし、直接的な過失はない。かなり頭の痛い問題だというのが率直な意見だろう。もちろん、協会が「Fixed」に加担している可能性は考えにくい。

 ただやはり、この騒動、どこか根本的にずれている気がしてならない。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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