定期宅配参入のイオン 立ちはだかる生協の厚い壁:骨太な差別化戦略が鍵
イオンが毎週特定の曜日に自宅まで商品を届ける定期宅配事業への参入を表明した。すでに同事業を大規模に展開する生協のシェアを奪うことはできるだろうか。
総合スーパーを展開するイオンリテールは2月13日、「Quvalie(クバリエ)」という定期宅配事業を開始すると発表した。4月上旬よりイオン幕張店を拠点として、千葉市内の限られたエリア内の家庭に生鮮食品や日用品を届ける。今後は営業エリアを拡大し、首都圏で6万人の利用者獲得を目指す。
定期宅配とは、毎週特定の曜日に利用者の自宅に商品を届けるサービス。あらかじめカタログやネットで購入する商品を選んで注文する必要がある。利用者が不在の場合、配達員が決められた場所に置く。似たようなサービスにネットスーパーがあるが、こちらは「ほしいものをすぐに届ける」「利用者に直接商品を手渡しする」という違いがある。
新事業を展開する意図について、広報担当者は「生活スタイルにあわせて購入方法を選んでもらうため」と説明する。同社ではすでに独自のネットスーパーやECサイトを運営しているが、共働き世帯の増加などにより「家にいる時間が不定期なので商品を受け取れない」といった声が出ていた。配送時間にとらわれずに時間を有効に使いたいと考えるニーズをくみ取るのが狙いだ。
大きく先行する生協
定期宅配事業では生活協同組合(生協)がすでに圧倒的な地位を築いている。
全国の主要地域生協が手掛ける宅配事業供給高は2016年度で1兆7730億円。そのうち、個人宅まで届ける個配供給高は1兆2268億円を占める。宅配事業の供給高は15年度から33カ月連続で伸びているが、けん引しているのは個配だ。日本生活協同組合連合会の広報担当者によると「個配を選ぶ組合員は増えている。特に共働き世帯が多いようなので、この層を積極的に取り込むよう活動している」と語る。
生協の強みはいくつか挙げられる。1つ目は特定のエリアを担当する配達員によるきめ細かいサービスだ。利用者と顔なじみになることで、高齢者や主婦層の困りごとに対応する。具体的には生協主宰の子育て応援イベントを紹介したり、高齢者の見守りサービスを提供したりしている。さらに、顔なじみになることでおすすめの商品を利用者に提案し、購入にもつなげている。サービスを利用する都内のある主婦は「頼まれると必要ないと思ってもついつい買っちゃうのよね」と語る。
2つ目は、企業と共同開発する「CO・OP」ブランドの商品力だ。商品数は約4500種類にのぼり、店舗だけでなく宅配でも提供している。
3つ目は豊富な品ぞろえだ。1都7県で定期宅配を展開する「コープデリ宅配」は商品数でクバリエを圧倒している。毎週届く大量のカタログは選ぶ楽しみも利用者に提供しており、ついで買いの需要を取り込んでいる。
イオンに商機はあるか?
クバリエが利用者を増やしていくためにはどうしても生協との競争が避けては通れないだろう。6万人の利用者を獲得するには、配達員の育成と商品力・品揃えの充実が欠かせない。イオンリテールの広報担当者は「あくまでクバリエは利用者の利便性向上が目的」であり、生協は競合にあたらないと説明する。しかし、利用者目線でみるとクバリエの仕組みは生協の定期宅配事業と似通っているところも多い。骨太な差別化戦略が打ち出せるかどうかが今後の鍵を握りそうだ。
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