ラフプレーと財務職員自殺 “服従の心理”の末路:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/5 ページ)
日大アメフト部のラフプレー問題で、選手が監督やコーチの指示に逆らえなかった心情を語りました。悪いことだと分かっていても、権力者の命令に従ってしまう。その心理は誰にでも働く可能性があり、50年以上前の実験でも明らかになっています。
「追い詰められていた、やらない選択肢はなかった」――。
唇をかみ締め、言葉を選び、そして、自らを自らの言葉で罰しつづけた日本大学のアメフト選手の記者会見。
「少し考えれば自分のやったことは間違っていると前もって判断できたと思う。もっと意志を強く持つことが……」
記者の質問に真摯(しんし)に答え続けた彼の勇気ある行動は、多くの人たちの胸を打ちました。
私は切なかった。とにかく切なかった。人間の弱さと強さを見せつけられ、言葉にできない悲しさと憤りを覚えました。
と同時に、何度も何度も「なぜ、ラフプレーをしたのか?」「なぜ、指示に従ってしまったのか?」と繰り返し質問する記者たちに、「アナタだって同じようにしてしまうよ」と言ってやりたかった。
「ミルグラム実験」――別名「アイヒマンテスト」。これは1963年、米国の社会心理学者スタンレー・ミルグラムが、ホロコーストで起きたメカニズムを理解するために行った実験です。
“アイヒマン”=アドルフ・アイヒマンは、ナチスの親衛隊将校で、数百万人ものユダヤ人を収容所へ移送するにあたって指揮的役割を担ったとして、逮捕された人物です。残虐な殺人鬼とされたアイヒマンでしたが、彼がもともとは実に平凡で普通の市民であったことから、多くの研究者や哲学者たちが「残虐行為の謎」を解こうと検証を試みました。
その1つが「ミルグラム実験」です。50年以上たった今も「権威者に従う人間の心理」を理解するための模範的な社会心理実験として評価されています。
私がアメフトの事件を聞いたとき、真っ先に思い浮かんだのが、この実験です。詳しく説明しましょう。
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