レスリング栄氏が溺れた「権力の罠」 根源にある“構図”とは:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/4 ページ)
至学館大学の谷岡郁子学長は、栄和人氏のレスリング部監督解任を発表しました。「権力」を持った人たちの不祥事が続いていますが、権力そのものは悪者ではありません。何が権力を「悪」にしてしまうのでしょうか?
「全く期待外れでまだ分かっていない。反省できていないと思わざるを得なかった」――。
全日本選抜選手権終了後に行われた緊急会見で、至学館大学の谷岡郁子学長は、選手へのパワーハラスメント行為が認定された栄和人氏のレスリング部監督解任を発表。現場にいた記者らの話では、「試合中に友人と昼食を食べに出た」ことが逆鱗(げきりん)に触れたとのこと。
「選手ファースト」を何度も口にしていた谷岡学長にとって、「試合中」というのは我慢出来なかったのかもしれません。ただ、その一方で、数カ月前には栄氏を圧倒的なパワーで擁護していただけに、突然の手のひら返しに驚いたのも事実です。
いずれにせよ、「権力」を持った人たちの不祥事が続く昨今。権力とカネ、権力とセクハラ、権力と暴力など「権力=悪」といった具合に、権力には常にマイナスイメージが付きまといます。
でも、権力って、そんなに悪いものなのでしょうか?
健康社会学的な視点では、「権力」は決して悪者ではない。むしろ、人の生きる力を高める、プラスの要因です。「自分で自由に決めることができる権利があるという感覚」をもたらす権力は、ストレスの雨に対峙するための大きな傘となり、職務満足感や人生満足感を高める効果を持つことが多くの調査結果で示されているのです。
しかしながら、プラス要因であるはずの権力が、リアル世界ではなぜか「悪」になる。
ビジネスマンの中には「自分のやりたいことをやるための手段として、出世するのは悪いことではない」と、権力を手に入れることを良しと考える人たちが多いにもかかわらず、です。
そこで今回は、ある中小企業のトップになった男性が体験したリアルストーリーから「権力」について考えます。
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