働き方改革を「無理強い」する企業に起きる大問題:業績が伸びない可能性も?(1/2 ページ)
恒例「働きがいのある会社ランキング」の運営企業によると、従業員に「働き方改革」を無理強いしても逆効果だという。上層部と現場層のギャップが広がるばかりでなく、業績も伸び悩むという。改善するには「働きがい」を高めることが重要としている。
「『働き方改革』をやみくもに進めると、従業員の士気が下がるため逆効果だ」――。企業の従業員満足度を高めるための調査や支援を手掛けるGreat Place to Work Institute Japanの岡元利奈子社長は、7月6日に開いた会見でこう強調した。
同社は毎年1回、経営方針や従業員の声を基に、企業の連帯感や組織力を評価する「働きがいのある会社ランキング」を実施している。岡元社長はランキングを作成する過程でさまざまな企業に触れ、数多くの「働き方改革」の失敗例を目の当たりにしてきたという。
頭ごなしは逆効果
例えばある機械メーカーでは、管理職が現場の声を聞かないまま「勤務時間を短くするように」と指示し、残業削減などの施策を頭ごなしに押し付けた。だが、業務量や業務プロセスは以前のままで、従業員は戸惑ったという。
同社がその指示が出る前後で従業員の意見を聴き、比較したところ、「この会社で働いていることを胸を張って人に言える」「経営層と気軽に話せる」との意見を持つ人が減り、従業員のモチベーションが低下していたとのことだ。
一方、上層部と現場層が綿密にコミュニケーションを取り合って「働き方改革」を行う目的を共有し、自社で取り組む仕事と外注する仕事を切り分けるなどの“選択と集中”を複数年にわたって行ったIT企業では、従業員の充実度・満足度は高かったという。
「このIT企業では『経営層は約束を果たしてくれる』『経営層は自分を大切に扱ってくれる』などの意見が増え、現場側が上層部を信頼していることが伝わってきた」(岡元社長)
「働き方改革」だけでは働きがいは得られない
また、同社コンサルタントの岩佐真裕子氏によると、こうした職場の信頼感、連帯感、「公正に扱われている」という実感、そして仕事に対する誇り――といった「働きがい」は、残業削減やテレワークの導入などの「働き方改革」だけでは得られないという。
「『働きやすさ』と『働きがい』は異なる。企業は『残業が○○時間減った』などと目に見える成果を追い求めるあまり、モチベーション喚起などの目に見えない施策を見落としがちだ」と岩佐氏は指摘する。
「むやみに『働き方改革』を進めても反発を買うだけ。従業員に納得感を持ってもらうことこそが重要だ」(岩佐氏)
岡元社長はこれを踏まえ、社員の働きがいを高める取り組みとして(1)管理職が従業員に仕事の意味や重要性を伝える「触発」、(2)組織の重要事項を管理職・従業員で共有する「語り掛け」、(3)従業員の声や意見を管理職が丁寧に聞き、対応する「傾聴」などを挙げた。
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