ガンダムの月面企業、アナハイム・エレクトロニクスの境地:元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(1/5 ページ)
ガンダムの世界の中では、月も大きな存在感を発揮する。連載「ガンダム経済学」第2回目は、月面都市「フォン・ブラウン」と、その地における最大企業、アナハイム・エレクトロニクスの経済活動に焦点を当てたい。
ガンダムの世界を経済的な視点で分析する連載「ガンダム経済学」。ガンダムのストーリーでは、月も大きな存在感を発揮する。そこで今回は、月面都市「フォン・ブラウン」と、その地における最大企業、アナハイム・エレクトロニクスの経済活動に焦点を当てたい。
ガンダムファンでなければ聞き覚えのない名称かもしれないが、バンダイのプラモデル工場がアナハイム・エレクトロニクスのロゴを使うなど、ガンダムを語る上では欠かせない企業がアナハイムなのだ。バンダイのプラモデル工場が新設され、アナハイムのロゴを見たとき、マニアは感涙したという。もちろん筆者もその一人だ。
アナハイムとはどのような企業なのだろうか。敵・味方かまわず、兵器であるモビルスーツ(MS)を売りつける“死の商人”という印象が強く、「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」では、地球連邦軍の最新鋭MSである「ν(ニュー)ガンダム」(エースパイロットであるアムロの専用機)を開発・製造する一方、アムロの宿敵であるシャア率いるネオ・ジオンにもMSを提供している。
単に兵器提供だけではなく、ネオ・ジオンの技術開発部門と協力関係にあったとみられ、νガンダムのコクピット周辺を覆う最新の材質サイコフレームはネオ・ジオンの技術だった。MSをネオ・ジオンにも地球連邦にも提供していることは公然の事実であった。
「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」に続く、「機動戦士ガンダムユニコーン」の前段では、アナハイムの試作MS「シナンジュ」がネオ・ジオンの残党に強奪されたことも出来レースであった可能性が高い。なお、作中ではシナンジュだが、強奪された段階では「シナンジュ・スタイン」(スタインは、石・原石の意味。ドイツ語でアインシュタインは1つの石という意味になる)と呼ばれていたようだ。カラーリングもシャアの後継者を彷彿とさせる赤ではなく、灰色のような磨かれる前の原石を思わせる色だった。
他の作品でもアナハイムは敵味方を手玉に取るコウモリのような存在として描かれることが多い。筆者も以前は「技術はあるが、死の商人」という評価であったが、「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」において、地球連邦とジオンの1年戦争の開戦前夜からの状況が明らかになり、認識が変わりつつある。
かつては地球連邦の秩序維持に協力
アナハイム・エレクトロニクスは月のフォン・ブラウンという都市に生産拠点がある。ほかにもドック艦ラビアンローズなどの生産拠点を有している。フォン・ブラウンは人類初の月面着陸をしたアームストロング船長の記念広場もある月面都市である。「機動戦士ガンダムZガンダム」(第23話ムーン・アタック)のナレーションによれば、月の中心都市で、「フォン・ブラウンを制するものは宙(そら)を制する」と言われた一大拠点である。月の裏側にはグラナダという大都市もある。
1年戦争でジオンのMS開発を担っていたジオニック社はグラナダと縁があった。もっとも、グラナダはジオンに全面的には協力していなかったため、1年戦争開戦に合わせて、ジオンにより制圧されることになる。次いで、フォン・ブラウンもジオンに占拠された。
1年戦争が始まるまでは、アナハイムは両勢力を手玉に取る死の商人というよりは、地球連邦の秩序維持に協力していたように見える。1年戦争前を描いた「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」では、ザビ家(後にジオン公国を設立)に対するアナハイムの反抗支援(事実上のテロ協力)が示唆されている。大きな火種を作って、ジオン・連邦の両者に武器を売るのであれば、この段階でザビ家に協力またはザビ家の専制を傍観したはずであり、当初は大規模な戦争を望むこともなく、想定してもいなかったのだろう。ジオン、そしてジオニック社を新参者と舐めていたのかもしれない。
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