導入バトル

【国内記事】 2001.08.27

 新システムとしてバーンを採用したマミヤ・オーピーは,一見スムーズに全社的にERPを導入したように見える。しかし,社内には多くの不満がくすぶっていた……

 ERPの導入では,業務のやり方(つまりビジネスプロセス)が大幅に変更されてしまう。これは,画面入力の方法だけでなく,肉体労働者の動かし方すら変えてしまうこともある。マミヤ・オーピーでも,大きな混乱が起こってしまった。

 ちょっとした業務変更でも,業務のやり方を変えることに対する抵抗は強い。「あちらを立てればこちらが立たず」という言葉もあるが,ERPの導入では「あちらを立てるなら,こちらも立てなければならない」となってしまのだ。そして,それを避けるために取る手段はひとつしかない。

 あちらもこちらも立てない――井出氏らのチームは,「全社から恨まれて」(同氏)も,それをやり遂げたのだ。

「システムの変更で,データの持ち方が変わってしまうことがある。どれだけ小さな変更でも,“以前のデータが必要”と言われる。新しい業務のやり方では必要ないと突っぱねたら,“俺が必要としているんだ”と返される」(井出氏)

 導入に伴って噴出する不満の顕著な例が,新業務では必要がなくなる日次のデータを出力するように求められたケースや,業務のやり方が完全に切り替わる入・出庫管理に見て取れる。前者は,部門のトップが今までのやり方に固執したために起きたことで,前述したケースの例だが,後者は現場に大混乱を引き起こした。

 これまでの入・出庫管理では,完成品に対して部品にナンバリングされていた。つまり,複数の完成品に対して同じ部品を使う場合でも,部品は「完成品の一部」として捉えられていたために,別のものとして扱われていたのだ。このため倉庫では,入庫してきた部品に印されたナンバーを見て,指定の棚に入れておき,出庫指示を待てばよかった。そして,それが新業務ではガラッと切り替わった。

 新業務での管理手法は,異なる完成品に対して同じ部品を使う場合もあることを想定し,部品単位で管理することになったのだ。このため,倉庫業務で「決められた棚」に入れて管理しておくことはできなくなった。入庫してきた部品は,完成品の一部ではなく,部品そのものであり,出庫指示は完成品ベースで届く。

「A」「B」という2つの完成品があると想定しよう。これらの完成品は,「Z」という共通の部品が必要になる。これまでの業務では,「A-Z」「B-Z」という別物として管理していた部品を,単にZというものとして管理するようになってしまったのだ。そして指示は,「Aを100個,Bを150個製造する」という形で届く。

 この例はかなりシンプルにしたので,単にZを250個出荷すればいいと考えるかもしれない。しかし実際には,完成品の数も部品の数も膨大で,これらが複雑に絡み合っている。このため,倉庫部門ではシステム稼動後に大きな混乱が起こり,新業務に慣れるまで約1カ月を要したという。

 このように,業務のやり方が抜本的に変わる面では混乱が起きたものの,プロジェクトが進むに従い,導入チームはできるだけバトルせずに導入を進めることを覚えてきた。

 それは,よく言われることだが,キーマンを押さえることだ。「文句を言ってくる人」がだれなのか分かれば,その人の説得から始めることで,新システムが多少はスムーズに受け入れてもらえるようになる。ただ,キーマンがだれかを判断できるようになるのは,「ある程度の場数を踏まなければならない」(井出氏)という。

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関連リンク

▼マミヤ・オーピー

▼バーンジャパン

[井津元由比古 ,ITmedia]