e-Day:富士通に見る「日本型」ベンチャー促進の切り札

【国内記事】 2001.08.27

 富士通のソフトウェア技術者たちが,ベンチャーの聖地,シリコンバレーとはひと味違う,いわゆる「日本型」のアプローチで起業した。

 新興の「アクセラテクノロジ」は,スパコンなどで培ってきた高速検索技術をe-ビジネス分野に特化させ,「eAccela BizSearch」(イーアクセラ ビズサーチ)として開発・販売していくという。XMLで書かれた電子カタログの高速検索や,Webサイトで顧客の疑問に答えるセルフQ&Aのシステムを構築するのに利用できるとしている。新興ながら富士通時代にリクルートのISIZEなど,300社に導入実績がある。

 同社は,富士通が昨年秋に制度化したプログラムによる5社目のスピンアウトだ。富士通が新会社の株式の40.5%を所有するものの,社長の進藤達也氏をはじめとする企業家らに47.6%を持たせ,経営を一任する。

 8月28日,都内の渋谷マークシティで行われた記者発表会で富士通の前山淳次常務は,「優れた技術であれば,飛び出して富士通の枠を超えた大きな事業になってほしい」と話す。スピンオフと本体がクルマの両輪として機能する新しいグループ経営を模索するアプローチだ。

 ユニークなインキュベーション事業で知られるサンブリッジが11.9%を出資しているが,同社のアレン・マイナーCEOは,「革新的な技術やエンジニアの情熱など,すべての評価基準を満たしたのはもちろんだが,起業家に十分なリスクとリワード(報酬)の可能性を与えている富士通のスピンアウトプログラムを高く評価した」と話している。

 2000年春,まだ業界がドットコムバブルに浮かれている中,マイナー氏は「日本型ベンチャーを促進するには,大企業との交流が欠かせない」と,地の利の良い東京・渋谷のオフィスビル,マークシティにベンチャー育成の拠点「ベンチャーハビタット」を開設した。

 以来,既に立ち上がった新興企業をハビタットに受け入れてきたが,大企業との交流から生まれたベンチャーはアクセラテクノロジが初めてだ。

 アイデアや技術を評価してくれなかった上司や会社に見切りをつけ,投資家やプロの経営者を探して,事業化に賭けるのが米国流と聞くが,年功制や終身雇用によって戦後の繁栄を築いた日本の大企業にはなかなか馴染まない。良しあしは別として,ここでも「日本型」が求められていた。

 マイナー氏は,「日本の大企業のサラリーマンが,組織を飛び出して起業するにはまだまだメンタルな壁がある。会社にも義理を果たし,メリットをもたらすアクセラテクノロジのスピンオフが成功すれば,多くの技術者があとに続くだろう」と期待する。

 池田内閣によって「所得倍増計画」が打ち出された'60年に生まれ,高度成長期に育った私も,一流大学に進み,大企業に就職するという生き方を当たり前のように考えていた。最近でこそ変わりつつあるが,優秀な人材は大企業に比較的集中するし,組織の中で育成されることも多い。

 マイナー氏は,「大企業の優れた人材が,ベンチャーとして活躍しないと,シリコンバレーに肩を並べられない」と話す。

 東京大学社会科学研究所の橘川武郎教授は,日本の大企業が21世紀にも受け継ぐべき点としては,優れた生産システムと並んで,優秀な人材による知識の集積を挙げている。

 ただ,21世紀は確実に変化の時代になる。製造業の場合,企業サイズの大小が単に「たくさん作る」か「少し作る」かの違いに過ぎなくなるともいわれる。大きいことのメリットも消されてしまうかもしれない。

 折りしも世界的なIT不況の波はデフレスパイラルの日本を直撃している。最近だけでもNECや富士通,東芝など,ITベンダーの名だたる大企業たちが相次いでリストラに大なたを振るうと発表した。アクセラテクノロジのようなスピンオフや,既に確立した事業ごと独立するMBO(Management Buy-Out)などが今後増えるに違いない。

 お隣りの韓国が,'90年代後半に通貨危機に苦しみながら財閥解体や企業統合を進めたことが,優秀な人材をベンチャーに向かわせ,インターネット先進国になったことはよく知られている。大企業で育ったイノベーターの流動性が,次のキーワードか。

[浅井英二 ,ITmedia]