e-Day:デルに続け,都の西北にベンチャーの拠点
| 【国内記事】 | 2001.09.03 |
先週末,早稲田大学に出掛ける機会があった。といっても,旧交を温めるために界隈で酒宴を開いただけのことだが……。
JR高田馬場駅からぶらぶらと歩き,20年も前に通った食堂やラーメン屋が今も健在だったりするのを見てホッとしたが,その一方で数日前,大学に隣接する早稲田実業が今春から東京・国分寺市に移転したという新聞の記事も読んでいた。たまたま時間があったので少し遠回りして立ち寄った。
外から眺めた早稲田実業の跡地は,校舎はそのままに,ただひっそりと静まり返っていた。しかしその記事によると,この秋からは学生起業家を支援するインキュベーション施設がオープンし,ベンチャーの一大拠点になるのだという。
早稲田大学の計画によると,この3月まで中高生が学んでいた教室に6つのブースをつくり,これを6部屋用意,合計36社の学生ベンチャーを入居させるという。最近,同大学は同好会やサークルの拠点をすべて本部校舎から強制退去させたと聞き,何かチグハグな印象を受けるが,ともあれ24時間利用でき,インターネット接続と光熱費込みで月額2万円という破格の家賃だ。
インキュベーションと名乗るからにはさまざまな支援策が欠かせないが,同拠点ではベンチャーキャピタルの斡旋を受けられるほか,早稲田OBの弁護士や公認会計士,経営コンサルタントらが手弁当で起業を助けてくれるという。同大学建学の精神ではないが,「野に下って次代を担う優れた人材の輩出」を狙っているのかと思ったが,実はこれ,「大学発ベンチャー1000社」を掲げる国策でもあったのだ。
5月下旬,経済産業省で行われた産業構造改革・雇用対策本部の初会合で15の提案が行われたが,そのリストのトップとして平沼経済産業大臣がぶち上げたのがこの構想だった。大学から産業界へ技術や知識の移転を進めるため,向こう3年間で1000社の学生ベンチャーを育てようというもの。大学が特許を取得するのを支援したい特許庁も10月中旬,同大学の理工系学生500人を対象に「知的財産マインド育成実践セミナー」を開講するという力の入れようだ。
12月まで7回にわたって行われる特許庁のセミナーは,前半こそ知的財産の基礎知識と特許の戦略的活用といった基本的な事柄だが,後半になると,より具体的というかナマ臭い話になる。特許庁の審査官が教壇に立ち,「フラットパネルディスプレイ」「自動車と環境」「ポストゲノム時代のバイオテクノロジー」「電子商取引とビジネス方法特許」といったテーマで,日本が置かれている課題なども明らかにしていくという。
バイオで知られるマサチューセッツ州ケンブリッジやカリフォルニア州のシリコンバレーを見ても分かるが,米国のベンチャー企業の集積地では,いずれも大学が知識の源泉としてその核となっている。ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学などでは,知的所有権を企業にライセンスし,そのロイヤルティを研究者に分配することも制度化しているほか,研究者自身による起業を促進させるためにベンチャーキャピタルの斡旋も行うという。
テキサス州オースチンが今やハイテクの拠点のひとつに数えられるようになったのも,地元テキサス大学オースチン校がインキュベータープログラムに力を入れた成果といわれる。1980年代前半,マイケル・デルがオースチン校の学生寮を拠点に,まだ生まれたばかりのPCを通信販売し始めたことはよく知られている。
ちなみに,彼が入学したのはコンピュータサイエンスではなく医学部だった。しかし,小学生のころから切手コレクションを売買し,高校生になるとローカル紙の購読勧誘で2万ドル近く稼いだ才覚は,すぐに彼をPCビジネスの道へと歩ませた。
もちろんシリコンバレーの老舗,ヒューレット・パッカードもスタンフォード大学の教授による起業の強い勧めがなければ,その誕生はなかったといわれている。
デルと私はわずか数歳しか違わないが,振り返ってみると1980年代前半,日本の大学では企業へ就職するまでのモラトリアム(猶予期間)をエンジョイするだけの学生が多かった。友だちを探すのも教室よりは雀荘の方が早かったほどだ。
早稲田実業の跡地に学生起業家の入居が始まるのは10月から。どんな顔ぶれになるのか楽しみにしたい。
[浅井英二 ,ITmedia]
