e-Day:危機にITが果たすべき役割

【国内記事】 2001.09.12

 自由の女神がすぐ近くに望めるマンハッタン島の南端に,110階という,この摩天楼でひときわ背の高い双子のワールドトレードセンターがそびえている。ウォール街のような入り組んだ路地の多いダウンタウンを歩いていると,空を見上げても,逆に近過ぎてその雄姿は見えないが,自由の女神の建つリバティ島や対岸のニュージャージー側からはツインタワーがしっかりと望める。

 ウォール街を背後に抱いて,まるで富の象徴のようなワールドトレードセンターに,何者かによってハイジャックされた中型旅客機が相次いで激突した。耳を疑う第一報に,テレビのスイッチを慌てて入れると,黒煙に包まれたマンハッタン島がブラウン管に映し出された。

 1963年,初めて日米間のテレビ衛星中継が伝えたのがダラスのケネディ暗殺だったが,今回の同時多発テロはそれに匹敵する衝撃的なものだと思う。

 3大ネットワークのひとつ,ABCでは看板キャスターのピーター・ジェニングスを起用し,広がる一方の被害を伝え続けた。憔悴し切っていたのだろうか,遊説先のフロリダから専用機エアフォースワンで飛び立ちながら,すぐにはホワイトハウスに戻らなかったブッシュ大統領に「4万フィート上空にいるのではなく,早く国民を落ち着かせるべきだ」と苛立ちを隠さなかった。

 ジェニングスは「空飛ぶホワイトハウス」と呼ばれるエアフォースワンからブッシュ大統領が情報を掌握し,適切な措置を取るだろうことは百も承知だったろう。それでも戦闘機の護衛付きで,幾つかの空軍基地を経由しながら注意深く移動した大統領に不満を漏らしたのだ。それほどのパニックである。

 今週都内のホテルで行われたJUAS(日本情報システム・ユーザー会)の「ITガバナンス21」カンファレンスで,伊藤忠商事の丹羽宇一郎社長は,「過去の経験は今のビジネスでは通用しない。すべて数値化,文字化してITを活用するしかない。末端で起きた情報を瞬時にトップが知る。そしてトップは,そのデータで経営判断を下すべき」と,21世紀の企業経営を説いた。

 ホワイトハウスに戻ったブッシュ大統領は聖書の言葉を引用し,「邪悪な精神に屈することはない」としたが,ドルや株式市場は混乱を嫌気して急落した。東京証券取引所でも日経平均株価が17年ぶりに1万円の大台を割り込んだ。

 土地バブルの崩壊から立ち直り,1994年に日経平均が2万円に戻した日本経済を再び悪化させたのは,時期尚早の緊縮政策に阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件が追い討ちをかけたからだ。今回のテロによる心理的なものが,米国の経済低迷を長引かせる可能性は高い。

 大国のリーダーがなすべきことと比べようもないが,われわれが日常で直面する小さな組織においても,ITが果たすべき役割が無力だとは思いたくない。

[浅井英二 ,ITmedia]