e-Day:ルールを変えて携帯端末市場も勝ち取るインテル

【国内記事】 2001.09.26

 ニューヨークとワシントンD.C.を襲った同時多発テロは,米国の安全を根底から突き崩してしまった。2週間以上が過ぎたものの,目に見えない敵との戦いに,人々の心は安らがない。

 国境を越えたテロ集団は通信手段としてインターネットを利用しているだろうことが指摘されているし,「ポルノサイト」を介して連絡を取り合っていたなんて怪情報まで飛び出している。

 日本のIT業界にとって今回の惨事は対岸の火事では済まされない。同時多発テロ以降,米国ITベンダーのエグゼクティブたちの来日が相次いでキャンセルとなり,アジア最大のカンファレンスと銘打つWorld PC Expoにも陰を落とした。ウインテルの両首脳が「Pentium 4+Windows XP」というブロードバンド時代の最強タッグを盛大にお披露目することになっていたが,テロのせいで出鼻をくじかれた格好だ。

 予定されていた基調講演は,日本法人のトップらが代役を務め,中にはインテルのジョン・アントン社長のスピーチのように「再びやってくる成長軌道に対して日本の準備はOKか?」と問い掛ける印象的なものもあったが,やはり全体的に見ると「飛車角落ち」の印象は否めなかった。

 今週,都内のホテルで行われているIntel Developer Forumも,パット・ゲルシンガーCTO以下,ほとんどのエグゼクティブたちが来日を取り止めている。

 昨年末にPCの売り上げが急落して以来,米国では経済減速が深刻化している。しかし,インテルは積極的な設備投資と研究開発投資を続け,業界全体を鼓舞しているかのようだ。日本市場のPC売り上げも年間1300万台前後で踊り場に差し掛かったといわれるが,800ドル程度のPCまでPentium 4にリプレースするというインテルの前倒し策とマイクロソフトのWindows XPがそうしたムードを一気に吹き飛ばしてくれるのではないかと期待したのだが……。

 それでもIDFの基調講演では,真のワイヤレスインターネットや10Gbps高速ネットワークの実現に向けた同社の取り組みが紹介された。

 日本法人で通信半導体営業本部長を務めるラビ・アガンバル氏は,iモードやWAPが独自に形成している「ワイヤレスインターネット」は過渡期であって,いずれユーザーはPDAやスマートフォンでもPCと同じようなエクスペリエンスを求めるようになると予測する。

 もちろんPDAやスマートフォンは,ディスプレイなどに制約があるため,アプリやデータのサブセットを受け取るわけだが,「インターネットは1つ。アプリケーションもデータも1つであるべき。ワイヤレスはそのインターネットにアクセスするメディアに過ぎない」とアガンバル氏。

 同社がPCA(Personal internet Client Architecture)を提唱し,汎用プロセッサであるStrongARMやXscaleを売り込むのは,これまでPDAや携帯電話のビジネスのルールをPCやインターネットの流儀に変えてしまおうというのだ。

 しかも,これが成功すれば,インテルにとってはおいしい。汎用プロセッサとしてStrongARMやXscale,通信部分をつかさどるベースバンドチップセットにはマイクロ・シグナル・アーキテクチャ(アナログ・デバイセズと共同で開発する新しいタイプのDSP),そしてメモリにはStrataFlashと,主要なビルディングブロックをすべてそろえているからだ。

 インテルによると,既にコンパック,ヒューレット・パッカード,パーム,シンビアンらからPCAへの支持を取り付けたという。

 ビジネスのルールを変え,市場を抑えにかかる貪欲さは独善的にも映る。しかし,日本法人でe-マーケティング本部長を務めるマイク・トレイナー氏は,「人が欲しいと思うモノを作ればビジネスは自ずから回復する」という1933年のチャールズ・ケタリングの言葉を引用し,魅力的な製品を開発し,過去にも幾つかの経済減速を乗り越えてきたPC業界の歩みを振り返った。

 1933年といえば,大恐慌から立ち直ろうとフランクリン・ルーズベルト大統領がニューディール政策を打ち出した年だ。ケタリングは,NCRで電動式レジスターを開発し,ゼネラル・モーターズ移籍後はキャデラックに電動スターターを取り付けた技術者として知られている。

 ケタリングは,「成長は与えられるものではなく,自らの手で勝ち取るものだ」とも話している。

[浅井英二 ,ITmedia]