ブロードバンドで出来る「親密で見知らぬ他人」とどう付き合う?

【国内記事】 2001.10.04

 千葉の幕張メッセで開催されているCEATEC JAPAN 2001の3日目となる10月4日,「ブロードバンドコンテンツからリレーションシップビジネスへ」と題して特別セッションが行われた。今回の目玉となったFOMAをはじめ,さまざまな技術が展示場やカンファレンスを通じて紹介される中,ここでは,ブロードバンドやユビキタスコンピューティングが進展していく結果として,変化していく人と人の関係性について,ユニークな議論が展開された。

 冒頭の挨拶を行ったドコモ・システムズの大野邦夫氏は,「“淋しい日本人”が増えている」と話す。これは,1991年に桐島洋子氏が出した著書「淋しいアメリカ人」をもじったものという。同著は,情報の洪水に流されたアメリカ人男女が,崩壊する家庭に代わる人間の絆を求めさまようという内容。

 また同氏は,D・リースマンの「孤独な群集」も紹介した。同著は,経済が発展していくにつれて,個人の思考が,強い個人による「内部志向」から,弱体化する個人が形成する「他人志向」へと移行していくというもの。

 大野氏によれば,出会い系サイトの急増を例に挙げ,現在の日本は,個人が弱体化し,「人と出会いたい」と志向する他人志向の社会へと向かっているという。同氏は,人の弱体化の中で,ブロードバンドがどのような役割を担うのかが焦点になってくると話している。

 また,「新メディアで増殖するIntimate Stranger(親密で見知らぬ他人)」をテーマに講演を行った佛教大学社会学部の富田英典教授は,インターネットや電子メール,さらにi-モードなどの出会い系サイトが爆発的に普及することで,「Intimate Strangerが増殖する」と話す。

 同氏は,人間関係のポートフォリオとして,匿名性を縦軸,親密性を横軸にして説明する。そして,ITサービスの進展で新たに生まれる関係性,それが,親密性が高く匿名性が高いIntimate Strangerだという。現状なら,いわゆるメル友が代表例となる。

 そして,次第に,従来通りの現実空間と,Intimate Strangerとの関係性で成り立つ仮想空間という2つの世界が存在するようになるという。

「アウラ」に現代人が求めるコンテンツが

 富田氏は,ベンヤミンの「アウラ」という概念が,現代人が求めるメディアコンテンツを探る上でのヒントになるという。アウラとは,今ここにしかない一回性の現象を意味する。つまり,今目の前で見ている演劇のような,複製の効かない,やり直しが不可能な現象のことだ。

 同氏によれば,複製技術が進歩する中でアウラは消滅しつつあり,また現代人もアウラを恐れているという。確かに,例えば人間関係が一回性のものばかりになったら,それを恐れるようになるかもしれない。

 しかし,その恐れは,自己の存在が危機に陥る可能性を秘めていることから生まれるものであるという。逆に言えば,自己の存在の安全性が保たれていれば,恐れないということだ。

 そして,現実空間において自分の存在が危うくなったときなどに,現代人はどうするのか。同氏によれば,メディアを通じた仮想空間の中にアウラを求めるのだという。つまり,会社や学校で自分の存在危機に立たされた人は,それを確認するために仮想空間へと道を求め,さらに現実空間とは全く正反対である一回性の人間関係に救いを探すということになる。

 富田氏は,この「仮想空間でのアウラ」に現代人が求めるコンテンツがあるとしている。メル友などをつくる心理を考えてみると,分からないこともない。

 さらに同氏は,都市全体が仮想空間になる可能性も指摘している。ブロードバンド,ワイヤレスLANなどによる,いつでも,どこでも,どんなデバイスからでもネットワークに接続できるユビキタス社会が到来したとき,それが現実になる可能性はある。

 既に今でも,駅を歩けばそこかしこでi-モードを楽しむ人を見かける。ただ,今後は帯域の拡大で,文字だけでなく,音声や相手の顔の映像なども,i-モードのコンテンツとして登場してくる。

 都市全体が仮想空間になり,一回性の関係性の中に,相手の人間の映像や肉声も含まれるようになった場合,個人にとっての他者との関係性は,現状とは異なったものなるかもしれない。

関連リンク

▼CEATEC JAPAN 2001 サイト

[怒賀新也 ,ITmedia]