エンタープライズ:ニュース 2002/07/17 20:18:00 更新


第3回 ポータル導入の成功のカギ

ポータル導入の最終目標は、「利用者の作業効率に直接インパクトのあるポータルを構築する」ことだ。利用者個人の仕事の変革を実現するワークスタイルの変化が、ポータルの提供できる最大の価値であろう。

 前2回の連載の中で、企業ポータルの「あるべき姿」がイメージできたと思う。では、実際にポータルを導入し、社員個人の作業効率をアップさせるにはどのような手法が有効なのだろうか。今回は、導入に成功するためのアプローチについて、考えてみたい。

 過去にポータルを導入し、成果を上げた幾つかの企業事例を分析してみると、共通するポイントが見えてくる。具体的には、1.明確なプロジェクト方針(対象利用者の絞込み、ポータルの目的の明確化、導入効果の評価方法の明確化など)、2.段階的改善アプローチ、3.推進リーダーの存在の3点である。

 これらのポイントは、あらゆるシステム導入に当てはまることかも知れない。しかし、対象利用者にフォーカスしたプロジェクト方針に注目してもらいたい。

 企業のIT担当者なら、選定するアプリケーションやシステムプラットフォームのスケーラビリティ/アベイラビリティが、利用者の人数に左右されることを直感的に問題視するのではないだろうか。しかし、これはプロジェクト方針として、大きな問題とすべきでない。あくまでも運用の視点から、利用者の職種が同一であるか、多様な職種にまたがった利用者を想定するのかによって方針を決めなければならないのだ。

 ポータル導入の最終目標は、「利用者の作業効率に直接インパクトのあるポータルを構築する」ことだ。となれば、職種ごとに異なる仕事のパターンに直結した情報アクセスシナリオが必要になってくることは明確だろう。複数の職種を扱う場合には、それぞれの職種ごとに別のシナリオを用意しなければならない。これはほんの一例だが、対象利用者にフォーカスすることで、運用を見越したプロジェクト指針策定が可能になるのである。

 一方で、段階的改善アプローチである運用後の効果分析手法という観点では、アクセス数評価にとらわれないことに注意してほしい。「アクセス数を高めること」が主目的となってしまえば、ポータルの本来のあり方から乖離することになってしまうのだ。

 なぜなら、評価をアップさせるべく、「アクセス数を高めるという目標」のために、強制的に使わせる工夫をしてしまうためである。アメとムチへの過剰な依存が、あるべき成果から遠ざかる元となることは言うまでもない。また、利用者の満足度調査も、全面的に信じ込んでしまうのは良くないと考えている。私の経験では、操作性に対する評価しか得られないことが多かったためだ。

 では、どのように効果分析を行えばいいのだろうか。ここで、ポータルの大前提を思い出してもらいたい。それは、社員個人の作業効率を上げるために情報アクセスを提供し、全社的な効果を生み出すことにある。

 私は、ワークスタイル分析に対応した仕組みを効果分析に持ち込むべきだと考えている。ポータルのように、個人の仕事を効率化する仕組みでは、試しに使ってみるという状態から始まる。そして、時を経て、操作に慣れてくるに従って、その効果も上がってくるのである。さらに、周りの人がみんなで使うようになると、共感が高まるという副次的な効果も生み出してくれる。

 この段階になって初めて、次のニーズが生まれてくる。このように、「小さく始めて大きく育てる」というアプローチが成功の秘訣なのだ。このため、推進リーダーは、ITのスペシャリストであるよりも、利用者ニーズの代弁者になれる人材であることが望ましい。

継続的な作り直し

 せっかく作り上げたポータルでも、役に立たなければ、すぐさま作り直すくらいの思い切った判断が必要だ。企業ポータルを社内展開する際の課題は、ある意味で基幹業務システムの設計よりも難易度の高いテーマかもしれない。

 なぜなら利用者である社員一人ひとりが必ずしも同じ仕事のやり方をしていないためだ。それぞれの仕事の進め方や熟練度の違いに合わせたパーソナライズなくして、本当の使いやすさは生まれない。つまり、効果のあるポータルにはならないのだ。

 特に「第3世代ポータル」では、画一的な道具の提供ではなく、まず個人の仕事を再設計するところから始まる。この部分を軽視すれば、ポータルが出来上がったときに、それが単なる情報掲示板としてしか機能しないことに気付くだろう。これでは、便利で楽しい「道具」になるだけで、個人の生産性をアップさせる仕組みを提供することは不可能である。

 それでは、個人の仕事の再設計とは何か。個人の仕事は職種によって異なり、業務プロセスに対応した職務(営業職であれば、見積り、契約、納品など)と、それらを分解した活動(会議、客先訪問、移動、自席作業など)から成り立つ。

 活動には場所の制約が伴う。会議室に情報コンセントがない企業は今でも多い。また、移動中の情報アクセスに使われるのは、現実的なところとしては、携帯電話くらいだろう。

 そこで、現在の仕事を活動別に分解し、情報アクセスとの関連性を調べてみると、活動別の情報ニーズが見えてくる。遠方の顧客訪問をブロードバンドを活用したテレビ会議に代えることも考えられるし、商談の前に顧客に関わるさまざまな情報を検索することで、商談効果が高まることも期待できる。

 これらのワークスタイル分析は、いきなり個人を対象にやるよりは、まず同一職種の平均モデルに対して実施するのが効果的だ。それをベースにした仕事の再設計を行なうことにより、新しく効率化された「ワークスタイルモデル」が出来上がり、それに基づく企業ポータルの構築と、利用者個人の仕事の変革が進められるはずだ。

 先日、企業変革の推進リーダーのコミュニティとして、「KE推進コミュニティ(www.ke-com.jp)」が発足した。KEはナレッジ・エンタープライズの略で、このコミュニティは、「21世紀の知的企業体質は、人材と業務プロセスと企業文化の卓越性によってもたらされる」という概念のもとに、企業変革に挑むリーダーたちに企業枠を超えた横断的な人材交流の場を提供しようという非営利団体だ。企業の枠を越えて他流試合のできる人材を多く育てたいと考え、私もコミットしているので、ポータルに興味を持ってくれたみなさんにも、是非参加していただきたい。

遠藤玄声(えんどうげんせい)

SAPジャパン eエンタープライズビジネスグループ バイスプレジデント

1953年生まれ。東京大学工学部を卒業し、1976年に日本IBM入社。1988年に米IBMの企業戦略部門に赴任後、1989年よりRS6000の製品責任者としてUNIXの新規事業を担当。1994年にCSK取締役に就任し、PC/LAN事業、インターネット事業、アウトソーシング事業、eサービス事業などの新規事業を担当。1997年にはTCOコンソーシアムを提唱し、会長を務める。 2001年10月より現職。「TCO経営革新」(生産性出版)「分かる!ITアウトソーシング」(ダイアモンド社)の著書がある。

[遠藤玄声(SAPジャパン),ITmedia]