エンタープライズ:コラム 2003/02/06 17:43:00 更新


Opinion:モバイルWebサービスの現状と課題 (1/2)

Webサービスは、LAN上のデスクトップコンピュータに大きな価値をもたらすと考えられているが、モバイル環境についてはどうだろうか? ノートPC、PDA(携帯情報端末)、携帯電話、タブレットPCなどさまざまなモバイルデバイスを企業内で使用するユーザーの数は着実に増加しつつある。

 ときとして、世界の企業のビジネスの手法を変革するという約束を引っ提げて新しい技術が登場することがある。それに続くのは期待と興奮の渦だ。その技術をいち早く採用してビジネスの手法をすっかり変えてしまう企業もあれば、慎重に「様子を見る」という企業もある。新技術が広範に普及することもあれば、線香花火のようにパッと輝いた後、すぐに消えてしまうこともある。

 新技術がわれわれに突き付ける真のチャレンジとは、事実と虚構を区別した上で、1)その技術の真の価値はどこにあるのか、2)その技術の限界は何か、そして3)将来、その技術が普及すれば、どんなことが約束されるのかをしっかりと理解しなければならないということだ。

 Webサービスは、LAN上のデスクトップコンピュータに大きな価値をもたらすと考えられており、業界はWebサービスによってシンクライアントコンピューティングが現実になると予想している。この技術は、データとアプリケーションへのアクセスを容易にする。その結果、企業に多大な労力とコストを強いるエンタープライズアプリケーション統合と管理/サポートにかかわる問題が軽減される可能性がある。

 しかしモバイル環境についてはどうだろうか? ラップトップ、PDA(携帯情報端末)、携帯電話、タブレットPCなどさまざまなモバイルデバイスを企業内で使用するユーザーの数は着実に増加しつつある。

モバイルデバイス特有のチャレンジ

 Webサービスの広範な普及に向けた流れの一部として、シッククライアント型からシンクライアント型アプリケーションへの転換が見られる。LANユーザーにとっては、シンクライアントアプリケーションの時代の幕開けは歓迎すべきことかもしれない。しかしモバイル環境では、克服すべき障害が幾つか残されている。

 現時点で、モバイルデバイスがシンクライアントアプリケーションに移行する上での障害は3つある。これらを以下に示す。

  • 1 ネットワークの可用性が不十分

 モバイルデバイスは、いつでもどこでもネットワークに接続可能というわけではない。辺ぴな地域、建物の内部、橋の下など、モバイルデバイスが接続不可能な場所はたくさんある。早い話、どんな素晴らしいサービスであっても、デバイスをネットワークに接続できなければ、それを利用することができないのである。

  • 2 高い接続コスト

 ワイヤレス接続料金は下がりつつあるが、それでも大企業ともなれば莫大な経費がかかる可能性がある。課金方式は大きく分けて3種類ある。接続時間に応じた料金、データ量に応じた料金、そして固定月額方式である。いずれのプランを選択した場合でも、モバイルユーザー1人当たり、優に60ドル以上の経費が毎月発生する。

  • 3 遅延

 ワイヤレスコネクションは速度が遅い。最高速のワイヤレスコネクションでさえも、ダイヤルアップモデムでLANに接続するよりも遅いため、ユーザーが情報を要求してから、実際にその情報を受け取るまでの間に長い遅延が発生する。実行するのに長い時間がかかるサービスはエンドユーザーに不満を与え、普及がなかなか進まないだろう。

 ネットワークプロバイダー各社は以前から、これら3つの障害を克服するものとして、高速でユビキタスなワイヤレスネットワークを約束してきた。しかし、高速な3Gネットワークを米国内に配備するという各社の計画が資金不足のために中断し、プロバイダーの関心がデータサービスと音声サービスの間で揺れ動くという状況の中、これらの障害が取り除かれる気配は当分なさそうだ。

 たとえワイヤレスプロバイダー各社が、計画を推進するための資金を十分に持っていたとしても、途切れのない通信可能エリアを提供するという単純な物理方式であるかぎり、リモートデバイスはLANに接続されたデバイスよりも信頼性が低いものにならざるを得ない。

 これらの制限は、モバイルデバイスでWebサービスを利用するのは無理だということなのだろうか、それとも、期待を現実的なレベルに合わせればよいというだけのことなのだろうか? では、Webサービスがモバイルコンピューティングに対して約束を果たしている分野とそうでない分野を検証してみよう。

約束その1:

アプリケーションおよびデータを全社的にシームレスに統合する

 Webサービスは、未統合で互いに通信することのない、ばらばらのシステムを過去のものにすると約束している。この分野では、Webサービスは間違いなく約束を果たしている。Webサービスは、エンタープライズシステムにおいてサーバ間の連携を実現するのに最適だ。これは、Webサービスが、人間可読形式のAPIを通じてコンピューティング機能を利用できるようにするからだ。この形式は、各種のプラットフォームおよび環境間でアプリケーションおよびデータの可搬性を高める。

 現在、アプリケーション同士を対話させるための手段として、最も簡単で費用効果に優れているのがWebサービスである。企業はデータへのアクセスをさらに容易にするために、アプリケーションを包むWebサービスラッパーを作成している。また、ベンダー各社も、自社のソフトウェア用のWebサービスを公開している。

 Oracle、Siebel、SAPなどのアプリケーションが、Webサービス環境との連携が容易になるのに伴い、新しいアプリケーションが可能になるだろう。例えば、巨大なウェアハウスを構築したり、新たにコンピュータシステムを購入したりしなくとも、単一のアプリケーションで在庫記録や価格表、顧客収益性計算書などにアクセスできるようになるかもしれない。

 モバイルワーカーは外回りの仕事が中心であり、彼らは出先で決定を行ったり、社内データを収集したりしなければならない。これらのモバイルアプリケーションユーザーにとって、社外からエンタープライズシステムにアクセスしたり、データを入力したりできることが不可欠である。

 モバイルデバイスと通信するソフトウェアを導入し始めた企業は、既にソフトウェアをWebサービスに対応させたベンダーを好むようになる。ベンダーがWebサービスをこのような形で利用できるようにすれば、ユーザーは独自にWebサービスを作成しなくても済むからだ。

 公開されたWebサービスは、エンタープライズシステムとモバイルシステムが互いのサービスを利用することを可能にする自然な連携ポイントになるだろう。この場合、両システムのベースとなる開発環境の違いは問題ではない。

約束その2:

モバイルデバイスからシッククライアントアーキテクチャを排除する

 Webサービスが約束しているのは、サーバ間の連携だけではない。サーバとクライアント間の連携も約束しているのだ。Webサービスは、シンクライアントアプリケーションを構築するのにも利用できるため、多くの企業がシッククライアントアーキテクチャを低コストのシンクライアントアーキテクチャで置き換えることを検討している。

 このアプローチは、LANベースのシステムにおいては適切な選択肢である。これは、理屈の上ではモバイルデバイスでも可能だが、モバイルデバイスには、LANでは見られない独自の制約が存在する。少なくとも今のところ、ワイヤレスコネクションの制約条件(信頼性、遅延およびコスト)により、この約束が十分に果たされていない。

 モバイルコンピューティング特有の制約を克服するには、2種類のアプリケーションを活用しなければならない。すなわち、タイムセンシティブなデータ用には「コネクション依存型」アプリケーションを、そしてコネクションが利用できない状況でもデータが利用可能であることが求められるミッションクリティカルな状況には「コネクション非依存型」アプリケーションを使用するのである。ほとんどのWebサービスアーキテクチャは、デバイスが常に接続されている状態を想定している。上で述べたように、これはたいていのモバイルデバイスに当てはまらない。

 モバイルアプリケーションは、オンライン方式とオフライン方式を融合したものでなければならず、シンクライアントだけに依存するという方向性は現実的でない。コネクション依存型とコネクション非依存型については、以下のようなシナリオを思い浮かべてみると分かりやすい。

 あるメーカーが、客先の薬局において製品の在庫量をチェックして在庫を補充するために、PDAを持った担当者を派遣したところ、店内のセキュリティシステムおよび建物の構造がワイヤレス信号と干渉するために、担当者がワイヤレスデバイスを使用することができなかったというケースを考えてみよう。

 この場合、シン/シッククライアントを組み合わせたアーキテクチャであれば、担当者は店に入る前に会社のシステムに接続し、データベースから必要な個所をダウンロードした上で、店内で在庫のチェックと補充作業を行うことができる。もしモバイルデバイスでシンクライアントしか使えないとしたら、この例の担当者のPDAは店内では使い物にならず、担当者は仕事ができないだろう。

 ワイヤレスネットワークが、LANネットワークと同程度の信頼性、費用効果性および高速性を獲得しない限り、モバイルアプリケーションはオンライン方式とオフライン方式の融合型である必要がある。だがこの制約は、IT担当者たちが避けたいと考えてきたシッククライアント問題を提起する。すなわち、すべてのモバイルデバイス上でシッククライアントとデータを管理するのは容易ではなく、費用もかかるのである。

シンクライアントに移行せずにシッククライアントコンピューティングのコストを抑えるには?

 だがWebサービスを利用するかどうかにかかわらず、モバイルアプリケーションの配備とサポートに要するコストを、シンクライアントアプリケーションと同程度のコストまで下げることは可能だ。

 モバイルデバイスの管理を支援するソフトウェアを使えば、コストを下げるとともに、以下のような機能によりシッククライアントアーキテクチャの利便性を高めることができる。

  • ソフトウェアの配付
  • データのバックアップ
  • コンフィギュレーションの設定
  • デバイスのセキュリティ
  • 同期化

 これらの機能を利用することにより、デバイスの設定を企業のポリシーに準拠させ、デバイスの良好な動作を維持し、データをバックアップしてユーザーデータの喪失を防ぐことができる。さらにデバイス管理ツールは、モバイルデーバイスの紛失や盗難によって重要な企業データが外部に流出するのを防止するのにも役立つ。

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[Joseph Owen,ITmedia]