エンタープライズ:コラム 2003/04/07 20:46:00 更新


Gartner Column:第87回 ユーザーが思いつく主要なCRMのベンダーとは?

CRMソリューションプロバイダーとして、あなたが思い浮かべるベンダーはどこだろうか? ガートナーが調査したところ、ダントツの1位はIBMだった。また、NECとSAPが順位を上げ、逆に富士通は評価を下げた。彼らの戦略をおさらいしてみよう。

 CRMのユーザーと潜在ユーザーを対象に、思いつく主要なCRMベンダーを自由に回答してもらったところ、ダントツの1位はIBMであった。また、NECとSAPは選択率と順位をどちらも向上させたが、富士通は逆にどちらも評価を下げた。今回は、これらベンダーの戦略をおさらいしてみよう。

 第69回のコラム「日本でのCRM普及を目指して」でCRMの需要に関する話を書いたが、そこでも述べたようにCRMの認知度はここ数年で格段に上がっている。早くからCRMに注力していたベンダーからは、CRMという言葉自体がもう古いのではないかと言われるくらいだ。

 そして、効果的なCRMを実現するための、さまざまな技術の統合による相乗効果から市場拡大への期待感が高まり、2001年から2002年にかけて、多くのベンダーがCRM市場に本格参入してきた。

 2002年8月のガートナーITデマンド調査室の調査で、CRMを利用中あるいは導入予定と答えたユーザーに対して、CRMソリューションプロバイダーとして思いつく主要なベンダーを3社まで自由に回答してもらった。2002年においては、全体的に選択率が減っている中、「その他」ベンダーの選択率が増加しているが、これは参入ベンダー数がいかに増大したかを示している。また2001年上位ベンダーの選択率減少は、CRMの認知度の高まりとともに、安易に著名な大手ベンダーのみを選択する回答者が減っていることも示している。

crm.jpg

 上のグラフからも分かるとおり、IBMは2年連続でダントツの1位を獲得した。これは一般企業ユーザーに向けてのCRMフォーカスのメッセージが十分に伝わっていることを示している。

 IBMは、プラットフォームやミドルウェアのインフラソリューションは自社製品を利用し、アプリケーションはシーベル、SAP、ジェネシス、カナなど他社のコンポーネント製品を利用してきた。また昨年末のPWCコンサルティングの買収により、CRMソリューション構築に不可欠なビジネスコンサル能力も強化させた。強みは徹底して強化し、弱みは提携や買収で補う戦略だ。

 CRM市場への参入ベンダーが増え、2002年は全体的に個々のベンダーの選択率が下がる中で、選択率と順位の両方を上げたベンダーにNECとSAPがある。一方、選択率も順位も下げたのは富士通だ。

 NECは2002年2月にCRMソリューション体系である「iBestSolutions/eCRM」を強化し、CRMを実現する主要なコンポーネント製品(Siebel、Clarify、KANA、SAP、BroadVision、RedBrickなど)を組み合わせて、コンタクトセンター、SFA(Sales Force Automation)、PRM(Partner Relationship Management)の3つにフォーカスを当てたソリューションを提供する。

 一方、選択率、順位ともに落としたのは富士通だ。富士通は、IBMやNECと違い、できるだけ他社製品を使わず、独自のコンポーネント製品を組み合わせたソリューションを提供する戦略を取っている。大きな既存の富士通ユーザー層を利用してビジネスを拡大させてきたが、ソリューションもコンタクトセンターが中心で、コンタクトセンターの需要が一巡し、かつ富士通の業績低迷のイメージが強まったことで、CRMベンダーとしてのイメージでも相対的に評価を落とした格好だ。しかし、昨年末にソリューション体系のCRM21を強化したこと、アクセンチュアとの提携による上流工程ビジネスの強化、さらにリスクマネジメント型の食品CRMの先行により、今後は巻き返しを図る。

 SAPは、IBM、富士通、NECと違い、パッケージ製品の販売自体をコアビジネスとし、CRMソリューションに注力する種々のベンダーと提携することでCRM製品のシェアを伸ばしてきたベンダーである。強みはパッケージ製品で、弱みであるインフラ構築や人海戦術の必要な部分は提携によって補ってきたといっていいであろう。

 また、SAPはバックオフィス系のERPベンダーとして知られているが、早くからCRMにフォーカスを当て、特に主要製品のR/3に付加する機能としてビジネスを展開していた。

 しかし、それではビジネスの大幅な拡大には限界を感じ、CRM単体機能でも企業ユーザーが使えるように大幅なバージョンアップを図り、一般企業にもビジネスターゲットを当て始めた。SAP CRM3.0の登場である。この製品が提携先を広げるという結果にも繋がった。

 SAP CRM3.0の市場への投入後、R/3ユーザーよりも若干小さなユーザー(年商500億円以上)で、強みの保守サービス機能が生かせる組立製造業にターゲットを絞り、成果を上げた。こうした戦略、その成果が、上の図のように選択率と順位の向上に繋がったのだろう。

 さらに、SAPは2003年2月末にSAP CRM3.1を発表し、CRM関連技術で今後需要が見込めるモバイルCRMやポータル機能を強化し、さらにPRM機能も付加し、本来の強みであるERPやSCMとの統合機能を武器に、CRMベンダーとしてのイメージも高めていくことが予想できる。あとは、ROI(Return on Investment)を効率良く高めるために必須のビジネスインテリジェンス機能の強化があれば、製品としてはより魅力的なものになるであろう。

関連記事
▼Gartner Column:第69回 日本でのCRM普及を目指して(前編)
▼Gartner Column:第74回 日本でのCRM普及を目指して(後編)

[片山博之,ガートナージャパン]