| エンタープライズ:ケーススタディ | 2003/06/29 23:03:00 更新 |

三菱商事の基幹システム、ユーザーの意識改革がポイント
三菱商事は会計、営業、人事のシステムをR/3に統合した。グローバル取引が前提となる大手商社でERPパッケージはどう機能しているのか。システム構築を行ったアイ・ティ・フロンティアの都築正行氏に話を聞いた。
三菱商事は1995年にSAP R/3導入の検討を開始し、2000年4月までには会計、営業、人事のシステムをR/3に統合した。そして、先日の5月末には、システムインテグレータのアイ・ティ・フロンティアにより、新人事システムを稼動させた。それまでは別のシステムで管理していた「発令」「海外給与」「退職年金」「寮・社宅管理」などを、「給与」とともにR/3 4.6Cベースで統合している。
グローバル取引が前提となる大手商社で、ERPパッケージはどう機能しているのか。また、克服するべき課題など、実際に導入作業を行ったアイ・ティ・フロンティアの執行役員常務、SIサービス統括本部長を務める都築正行氏に話を聞いた。

三菱商事の社員として、96年にR/3導入に参画したという都築氏。基幹系システムの業務フロー自体は商社のコアとなる強みと直接関係しないため、R/3によって標準化した方が得策と話す。
導入前の課題とシステム構築の狙い
「営業、収支、会計の各機能はリアルタイム処理をしていたが、システム全体が最新の情報を共有するのはバッチ処理後の翌日だった」と、2000年の営業、会計、人事システムの統合について都築氏は話す。
そのため、例えば取引企業が倒産した場合、営業と会計が持つデータに大きなギャップができてしまうなど、「経営の意思決定を迅速にできない」という問題があった。リアルタイム性の課題を克服することが、三菱商事にとってのSAP導入の目的の1つとなった。
また、連携する前は、システム間のデータのやり取りが非常に複雑になっていたという。その上、データ自体は日々増えていき、運用コストが年々大きくなった。これもERP導入に踏み切った理由になったようだ。
さらに、商社はビジネスの性質上、「アメーバのごとく」組織変更が行われるという。プロジェクトごとに組織が立ち上がり、終了次第解散し、また新プロジェクトが誕生するからだ。絶え間ない組織変更に、システムを合わせていくという作業が困難を極めることは想像に難くない。
「ERPでパッケージ化すれば、組織コードを変更し、マスターデータを直すだけで対応できる」(都築氏)
苦労した点は?
ZDNET システム構築の際、さまざまな部門にまたがるデータをR/3向けに最適化して、マスターデータを定義する作業が手間取ると聞きます。
都築 データの移行が課題になることは確かですが、三菱商事ではそれほど問題にならなかった。というのは、関西の商社の多くはグループごとにシステムが異なっていた場合が多いのですが、三菱商事や三井物産などの関東の商社は、比較的グループ間で同じシステムを使っていたからです。
商品コード体系などの表記の仕方が共通していたのです。ただし、通貨や国の表記は異なっており、こうした点に対応する以外は大変ではありませんでした。
苦労したのはむしろパッケージシステム構築後です。ユーザーをシステムに慣れさせるために、いかに効率的な研修を行うかでした。
従来は、3000万ページにも及ぶ契約者情報などを紙で扱っていました。それをPCの画面で扱うだけでも、慣れないユーザーにとっては骨の折れる作業でした。管理職の中には、部下に画面をすべてコピーさせる人もいました。これではペーパーレスなど実現できるわけもありません。人間は45歳にもなれば老眼になるものですので、無理もないという側面もあります。とにかく、相当な意識改革が必要になります。
導入効果
ユーザーは実際にこのシステムを日々の業務にどう活用しているのか。
例えば、在庫を扱う社員は、正しい在庫情報をリアルタイムに取れるようになったことで、無駄な在庫の発注を避けられるようになったという。また、営業、会計、人事の各データに横串を入れるBWと呼ばれる情報系システムの構築により、かつては加工しなくては取得できなかったデータを簡単に取得できるようになったという。
パッケージ選定
ZDNet なぜSAPを採用したのでしょうか?
都築 これには多くの議論がありました。まず、(現場では)今まで最善のことをやってきたという自負があるのに、なぜパッケージなど導入するのかという反発があった。
「しかも、なぜドイツなんだ?」
こうした中で、開発そのものをベンダーにアウトソースしようという考えでまとまりました。そして、結論は、「勝ち組みのパッケージを使おう」ということ。当時の勝ち組がSAPだったわけです。
例えば、IBMのメインフレームはかつてのスタンダードですが、後に少しずつシェアを落としていきました。しかし、IBMユーザーを獲得するために、「IBM互換機」が提供された。これと同じで、ユーザーが多いSAPを選べば将来への不安は少ないと考えたのです。
もう1つのポイントは開発力です。たとえ、ある時点で技術的に遅れがあったとしても、開発力さえあればそのうち追いついてくる。自社システムをアウトソースするという長い目で見れば、開発力は大きなポイントになります。実際、SAPはインターネットへの対応には遅れましたが、現在では、NetWeaverなどのコンセプトを掲げてしっかりとインターネット環境をサポートしています。
ZDNet 逆にSAPのソフトウェアへの要望などはありますか?
都築 SAPはグローバルの仕組みであるため、日本企業に対応させるのは大変です。例えば、原価計算法では、SAPは移動平均法と標準原価法にしか対応していませんでした(導入当時)。この2つならば、システム的に在庫の履歴を持たなくていいため、処理の負担が少なくて済むのです。しかし、日本企業は、後入先出法などほかの方法を取っている企業が多い。(編集部注:後日、SAP社からR/3が現在はLIFO(後入先出法)に対応しており、システム的に在庫の履歴も持つとの指摘がありました。訂正してお詫びいたします。)
そして、SAPはこうした事情に対応した製品を「絶対作らない」としています。対応するとSAPのソフトウェアが持つ「コンパクトな良さ」が消えてしまうから、つまり、SAPがベストプラクティスであるという考えです。
そのため、こうした課題には、日本のパートナー各社がそれぞれのケースに合わせたテンプレートを開発し、提供しています。
今後の拡張予定
親会社のSAP導入はすべて終了したため、今後は国内外の連結対象先へと横展開していくという。すべての会社がSAPになるとは限らないが、インタフェースを取る仕組みは多く存在しているため、EDIなども含めて取引先とシステムを連携していく。
また、運用コストは従来の半分になったという。開発コストの償却を考慮しても、「コスト削減のメリットは享受できると」している。
アイ・ティ・フロンティアは「三菱商事グループのITソリューション企業」として、2001年4月、三菱商事が80%、日本IBMが20%出資して設立された。関連記事
関連リンク
[怒賀新也,ITmedia]
