エンタープライズ:インタビュー 2003/09/22 04:00:00 更新


Interview:オープンスタンダードこそがSunの掲げる真価、シュワルツ執行副社長

SunNetwork 2003でソフトウェア統合発表のキーマンとなったシュワルツ執行副社長。オープンスタンダードこそ真価だ、とSunにおけるJavaとLinux、Solarisの位置づけを語る。

 米国時間9月16〜18日にカリフォルニア州サンフランシスコで開催された「SunNetwork 2003カンファレンス」。「Sun Java System」という新たなソフトウェア統合戦略が発表され、今後が象徴される戦略が相次いだ。

 Sunは先にサービスベンダーとしての転身発表を行っていたが、今回のライセンス価格破壊を目論む戦略によって業界再定義を推進していく。その統合を指揮するキーマンの1人となっているのは、基調講演でもパネリストを務めたジョナサン・シュワルツ執行副社長である(関連記事)。同氏はソフトウェア部門の統括も行い、今回の発表に関しても多大な影響を与えた。カンファレンス最終日の18日、国内アナリストを一同に集めたインタビューが行われた。

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Sunでソフトウェア部門を統括するジョナサン・シュワルツ執行副社長


―― SunにおいてLinuxのポジションはどの程度を占めているのでしょうか。

シュワルツ まず最初に、クライアントとサーバという2つの面があります。

 クライアント上でのLinuxは、組み込み機器などへの展開からも大きなモーメントを持つ存在です。SunとしてはLinuxの進化を促進させるために、Javaライセンシーに対しての責任を負っています。それはLinuxとJavaが同一環境で利用できることを保証する点です。そして、すべてのOS上でJavaが利用できることも推進します。デスクトップ用途という上では、SunではLinuxだけでなくSolarisも提供していきます。

 サーバ側を見ると、現在市場ではインテルのプロセッサが多くを占めています。AIXやHP-UXはインテル上で走りません。唯一、現在インテル上で走る主要なものはWindowsとJava Enterprise System、Solaris上のJS、そしてLinuxです。

 また、Solarisにおいては32ビットを問わず64ビットでも展開されオープンスタンダードを取り入れています。インテル、SPARCもサポートしていることからLinuxよりも優れていると考えています。マルチプロセッサ対応の点でも外せません(関連記事)。このような点からSunでは明らかな棲み分けが成されています。カスタマがLinuxを要求すれば、もちろんその要望に応えられる土壌もあります。

 オープンソースの上で考えなければならない点としては、IBMに関わる数々の訴訟問題が挙げられます。同社はオープンスタンダードとオープンソースを混同して市場を混乱させています。オープンスタンダードは生産性向上と競合性を刺激します。J2EEに対しても利点がありどのようなアプリケーションサーバでも利用できます。この点を評価すべきです。しかし、オープンソースは必ずしもオープンスタンダードを意味しません。なぜかといえば、例えばLinuxの異なるディストリビューションでは特定のアプリケーションが稼働するという保証がないからです。IBMはこの2つを同一視しており、他の競合相手を排除する傾向にあります。このような背景からも、最終的にはオープンソースよりもオープンスタンダードの方が重要だと考えています。

―― OrionやMad Hatterの発表により今後のソフトウェア産業はどのようになると考えていますか。競合相手はどのような反応をすると思われますか。

シュワルツ まぁ競合相手は反応してくると思われますが、最初になぜ半年ほど遅れて反応してくるかということに対して説明します。

 今回発表をしたJava Enterprise Systemは徹底的なビジネスプランを練ったものであり約4000人で開発をしました。単なる再編リリースではありません。このため、競合が具体的な反応を示すためには単なる発表だけでは済まされないでしょう。そして、まずは価格を下げなければならないことも明らかです。しかしこれは極めて難しいことです。

 マイクロソフトがわれわれと同じような価格設定に出てくればおもしろいのですが、そうではなければ同社の市場がいっそう空洞化することも考えられます。

 Sunではデスクトップにおいて世界中の企業と数千万ドルの節約が可能だと話し合いをしています。そして、今後は独立したベンダーが占有する展開は難しいとも考えています。ソフトウェアベンダーとして将来残るのは、マイクロソフト、Sun、IBMだけだと思います。

 今回、サーバ製品の発表を行ったことでDELLへの影響も大きいはずです(関連記事)。DELLは現在大きな問題に直面しています。それはほとんどの利益がWindowsの再販からきているという点です。今回の発表でソフトウェア業界の再定義を行うという点も明らかにしたわけですが、Windowsに取って代わるセキュリティ問題も考慮されたものであれば、DELLに対するアドバンテージも見い出せるのです。

―― Sun Rayは約10年間ほど展開をしてきているわけですが爆発的な普及を見せません(関連記事)。その背景にある理由は何だと考えていますか。また、今後どのように展開していきますか。

シュワルツ 3つの課題があると思われます。まず最初にユーザー環境という点です。しかし、Sun Ray発表の当初は10年前の環境を想定していましたが、Mad Hatter(Java Desktop System)によってこの点は解決ができたと考えています。

 2つ目は回線の帯域幅です。最初のSun Rayでは10Mbpsの占有が必要でしたが、1年前の発表で1Mbpsに下がりました。つまり、DSLであれば銀行の支店や自動販売機、街角でも利用することができるようになりました。これにより市場が広がり土壌が整ったといえます。

 3つ目は、最も大きな点かもしれません。スマートカードのセキュリティを深く考える背景がなかったことです。しかし、最近では認証を問題視する市場ができあがってきています。ビジネスを揺るがすセキュリティ問題は今や無視できない存在です。この点からも重視すべきポイントであることが明らかです。

 もちろん問題は残っています。Windowsしか利用しないユーザーもいるでしょう。しかし500〜1000ドルのデスクトップを購入するのであれば、かなりの節約が行えるのが確かです。調査したところ、世界中の企業では500〜2000ドル程度ではなく、さらに多くの節約を望む向きがあります。非常に大きな市場があると考えています。

―― Sun Rayはいつでも接続されているということですが、ワイヤレスにおいてもいつでもつながっている想定なのですか。

シュワルツ ネットワークはいつでも信頼できるものだと考えていません。つながっていてもキャッシュする必要性があるでしょう。いつでも、という問いであれば、アクセスポイント不在な地下鉄などの場で切れるでしょう。しかし、いつでもつながっている環境に近づいてきていることは確かです。Sun Rayは、まだワイヤレスに対しては魅力的ではないかもしれません。そこでSun Rayがパーフェクトであるという環境も紹介しましよう。

 PCのデスクトップを何百万人に販売しようとします。しかしローカルにアプリケーションを持つクライアントをサポートする費用は莫大であり、コスト面からもビジネスモデルを壊してしまうでしょう。しかしSun Rayであればリモートでクライアントの動作環境が管理されるため管理コストが軽減可能です。

 コンシューマ利用において不都合な点もあるでしょう。自分好みな設定ができない点がデメリットと思われます。しかし、Sunが想定するのはそのような市場ではなく特定のアプリケーションを利用する場です。デスクトップをシステムとして考え、そしてサービスとして利用する向きであれば、環境設定の変更を特に望まないのです。例えばファーストフード、銀行支店などであり、このような場でSun Rayが展開できると考えています。

 ポケットに入れて歩くというのは、現在はまだ現実的ではないかもしれません。しかし携帯電話も昔は常に持ち歩くなど考えられなかったわけです。

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初日の基調講演後、マクニーリーCEOと共にプレスQ&Aに臨むシュワルツ氏


―― Java Desktopとオープンソースコミュニティの関わりについてを聞かせてください。

シュワルツ コミュニティからもいろいろな意見を聞いています。Sunはデスクトップに価格設定をして販売するわけですが、Linux上でMozillaやOpenOffice.org、Javaなどで構築すれば、自分にだって構築できるということが聞かれます。しかしSunの場合、そのような人たちに対しては購入しないくださいと言っています。

 Sunがターゲットとするのは、このような構築の手間に投資をしたくはない管理用インフラを欲するエンタープライズです。提供するのは、管理、セキュリティ、統合化であり、この点にこそ価値を盛り込んでいます。メインのターゲットになるのは、企業のCIOや通信会社や自動車メーカーなどでSun Rayとの統合も見据えたカスタマです。

―― 未来構想が先行し勝ちだと思えます。Sunがいますぐに展開すべきことは何ですか。

シュワルツ Sunが成長するためには、既存の顧客の中で提案していくだけでは不十分なことを理解しています。Java Enterprise Systemを発表した際、実はそのターゲットとなる企業向けに90種ほどの見積もりを用意しました。そのうち30の企業はSunにとって新規です。これはまさに市場があるということを意味しています。

 コンピュータ業界において、マイクロソフトに代わるものに興味を示さない企業はないということも確かです。可能性と市場がいかに大きいかということがはっきりとしています。

 Sunにおけるトップのカスタマ60社を見れば、合計約1000万人であり、サーバでは10億ドルと算出しています。デスクトップでは1人50ドルですから5億ドル、合計して15億ドルもの市場があります。

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関連リンク
▼SunNetwork 2003 Conference レポート
▼SunNetwork 2002 Conference レポート

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