エンタープライズ:ニュース 2003/10/13 19:15:00 更新


改めてデジタルデバイドの解消を呼びかけるITU

TELECOM 2003のオープニングフォーラムでは、4年前のTelecomでも取り上げられたデジタルデバイドに再度焦点が当てられ、ITU事務総局長の内海氏やHPのフィオリーナ氏が講演を行った。

 通信インフラを持つものと持たないものの差、「デジタルデバイド」は、古くから存在し、今なお解決を突きつけられている問題の1つだ。ジュネーブで開催されているTELECOM 2003のオープニングフォーラムでは、4年前のTelecomでも取り上げられたこの問題に再び焦点が当たった。

 「Helping the World Communications(世界コミュニケーションの支援)」と題したフォーラムで議長役を務めたレーザ・ジャファリ氏(ITUテレコム委員会メンバーで米Omega Partnersの会長兼CEOでもある)は、前回のTelecomの後に通信業界が大きな危機に直面し、当時提示された公約の多くが守られなかったと指摘。今こそ、どのように発展途上国におけるテレコムインフラの整備を進め、デジタルデバイドの解消に取り組むかを議論すべきだとした。こうした格差の解消は、ひいては全世界的な経済の持続可能な成長に寄与するものだという。

会議の模様

フォーラムでは再び「デジタルデバイド」が議題に上った

 続いてスピーチに立ったのは、ITU事務総局長の内海善雄氏。同氏は、いまやモバイルやブロードバンド、無線LANが必須のテクノロジになりつつあるとしたうえで、やはりデジタルデバイドの解消を課題として挙げた。

 同氏が紹介したITUの調査によると、発展途上国における通信普及率は、4年前に比べると確かに改善された。しかしそれ以上に米国やヨーロッパ、東アジアにおける進捗状況が著しく、普及率のパーセンテージだけでいえばむしろ格差は広がったと見ることもできる。これに対しITUでは、2015年を1つのめどに、あらゆる学校や図書館、あるいは政府機関などに接続を提供することを目標にするという。内海氏は、「貧困の追放と同時に『Helping the World Communications』という課題に継続的に取り組んでいく」と述べた。

「非ゼロサムゲーム」を

 このオープニングフォーラムで多くの注目を集めたのは、米Hewlett-Packardの会長兼CEOを務めるカーリー・フィオリーナ氏だろう。ちなみに同氏は、HPをCEOとして指揮する以前は、米AT&Tに、つまりまさにテレコム業界に在籍していた。

 フィオリーナ氏はこのスピーチで、技術的進化を基盤とした競争こそが世界的な経済の発展につながるとする自説を展開。「勝者と敗者が分かれる“ゼロサムゲーム”ではなく、皆が勝者となる“非ゼロサムゲーム”を目指すべき」と語った。

フィオリーナ氏

競争の存在こそが世界経済成長の源泉、と、グローバル企業のトップらしい意見を述べたフィオリーナ氏

 同氏によると、その鍵を握るのは全世界的な競争だ。障壁を取り払い、競争力を持てるようにすることによって、経済の成長と雇用が生み出される。これはひいては世界的な経済成長につながるという。

 ただ、そのためには人と研究開発、より透過的な環境整備のために投資が不可欠だ。景気の悪化にともない真っ先に削減対象となりがちなのがこれらの分野だが、「グローバルな企業は経済的な面だけでなく、経験やナレッジの蓄積といった人的資源の面でも貢献することができる」(フィオリーナ氏)という。

浮上するセキュリティ問題

 フィオリーナ氏はさらに、今後の通信技術に求めらる要素にも触れた。同氏は、デジタルカメラで撮影した画像を加工し、やり取りする例を挙げて、「現実世界におけるプロセスはすべて、デジタル化し、モバイル化し、そしてバーチャル化する」と予測する。

 ただそれには、容易さ・簡素さや管理といった要素と並んで、重要な情報をやり取りできるだけのセキュリティも必要という。こうした要素を備え、リッチなコミュニケーションを作り出す技術が、世界的な競争力の向上に利用されるとした。

 EU欧州委員会のメンバーであるエルッキ・リッカネン氏も、セキュリティの問題について言及している。同氏は、ブロードバンドは不可欠のインフラであり、その普及が経済に大きな影響を与えると語る。だが同時に「インターネットへの常時接続は生産性を向上させるが、同時に脆弱な部分も増加させる。つまり、セキュリティの問題が浮上してくる」と述べ、法的なフレームワーク作りを含んだ取り組みが必要とした。

 リッカネン氏は、セッション後の質疑応答の中でも、「欧州委員会ではセキュリティを、プライバシーと並んで最も重要な問題として認識している」と発言した。ただ、さまざまな規制によってかえって成長が妨げられるような事態は避けなければならないという。

 内海氏もこの問題に関して、「ITUではあくまでメンバーシップに則って活動する組織だが、現在、さまざまな分野で活発に、セキュリティに取り組むための議論がなされている。今後はこうした種類の活動が加わってくると確信している」と語った。

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▼ITU Telecom World 2003レポート

関連リンク
▼ITU Telecom World 2003

[高橋睦美,ITmedia]