エンタープライズ:ニュース 2003/10/13 19:17:00 更新


ブロードバンド×モバイルに期待を寄せる通信業界

TELECOM 2003の会場で行われたモバイル/無線LAN業界のトップによる会議では、業界トップがこぞって、モバイルのブロードバンド化に大きな期待を寄せた。

 ジュネーブで開催されているTELECOM 2003では、10月12日のオープニングフォーラムに続いて、モバイル/無線LAN業界のトップによる会議が開催された。壇上にはNTTドコモ社長の立川敬二氏らが登場してプレゼンテーションを行った。

 この会議のテーマは「Recconect(再接続)」。1995年に行われたTELECOM '95のテーマ「Connect」に引っ掛けたものだ。爆発的なブームとその後の急激な業界の停滞を踏まえ、再度、今後のコミュニケーション業界の方向についての見方が示された。中でも具体的な議題として取り上げられたのはワイヤレス――いわゆる携帯も無線LANもひっくるめたワイヤレスの世界におけるブロードバンドサービスである。

Recconect会議

モバイルのブロードバンド化をテーマに業界トップがプレゼンテーションを行った

 モバイルの普及ぶりは、会場を歩いていても感じることができる。まずフロアでは、4年前は影も形もなかった(であろうことに賭けてもいい)ホットスポットサービスが提供されている。ためしに会場でノートPCを開いてみれば、すぐに幾つかの無線LANアクセスポイントが見つかった。行きかう来場者はひっきりなしに携帯電話で会話しているし、たとえフォーラムの講演中であろうと着信音――着メロと言うにはちょっと貧弱なのだが――が鳴る始末だ。

 ドイツのT-Mobileでモバイルデータマーケティングを担当するニケシュ・アロラ氏は、「モバイルでブロードバンドが成功するかどうかには疑いを抱いていない。現に日本では、これが成功を収めている」と述べた。同氏はまた、社会に大きなインパクトを与えた電話や自動車といった発明に比べ、インターネットや携帯電話は非常に早いテンポで普及していることに言及したうえで、「ブロードバンドはそれを上回るスピードでマスマーケットに受け入れられようとしている」と言う。

 ただ一方で、業界が見逃してきた点もあるとした。つまり、「業界はこの2〜3年、シンプルさや信頼性、使いやすさといった顧客が求める要素を見逃していた。顧客が望むのは3Gや4G、Javaだとかそういったものではなく、使いやすさだ」(アロラ氏)。そして、この先成長することができるのは、こうしたコンシューマーのニーズを汲み取った企業だと言う。

ブロードバンドワイヤレス、4つの「いい知らせ」

 続いて登場したのは、米Intelの上級副社長にしてコミュニケーショングループを率いるショーン・マロニー氏だ。同氏は、今業界にはいくつか回復の兆しが見えているとし、その根拠として4つのポイントを挙げた。

マロニー氏

イギリスの建設会社やカリフォルニア州警察の例を挙げて、「ワイヤレスが仕事の仕方を変える」と述べたマロニー氏

 1つは、同氏言うところの「ブロードバンドワイヤレス」が新たな市場の牽引力として登場したことだ。この基盤としては既存のWi-Fiに加え、より高速なWi-MAXの開発が進められている。

 マロニー氏によると、ブロードバンドワイヤレスはこれまでにない速度で普及しつつある。これが2つめのポイントだ。仕様が標準化され、機器の価格が低下し始めた1999年以降、Wi-Fiが急速に広がっているという。

 3つめのポイントとして同氏は、こうしたワイヤレス技術が、さまざまなシチュエーションで仕事の進め方を変え、生産性を押し上げていることを挙げた。「どんな業界であろうと、この新しい技術は仕事のやり方を根本的に変えてしまう」(マロニー氏)。

 そして最後に、ブロードバンドワイヤレスは、TELECOMのフォーラムでもたびたび指摘されているデジタルデバイド解消の手段としても有効だという見方を示した。「ブロードバンドワイヤレスは、(まだ未接続のまま残されている)これからやってくる50億もの人々の接続手段になるだろう」(同氏)。というのも、銅線や光ファイバに比べ、無線でのインフラ構築は安価に済むからだ。

 マロニー氏はただ、ブロードバンドワイヤレスの進展を推し進めるうえでは、ビジネスモデルの検討や国ごとの割り当て周波数帯の調整、標準化を検討していく必要があるとも言い添えた。

音声通話は飽和状態に

 続いて登場したのが、NTTドコモの立川氏だ。同氏は、モバイル通信が順調に伸びていることを指摘し、今後はさらに幾つか新しい分野に取り組んでいく方針を示した。

立川社長

今後は音声通話をそれ以外のデータ通信が凌駕するとした立川社長

 国内のカンファレンスなどでもたびたび触れられていることだが、立川氏は改めて、モバイルの中でも音声通話は飽和状態に近づいていると指摘。今後は、動画像をはじめとするマルチメディアコミュニケーションに注力し、非音声通信の割合を高めていく。具体的には、今は8対2の割合になっている音声とデータの割合が2010年には逆転し、データが70〜80%を占めるというお馴染みの予測を示した。

 同時に、人と人だけでなく、人と機械、あるいは機械と機械の間のユビキタスコミュニケーションへの取り組みにも触れた。具体的な用途としては、GPSを組み合わせたロケーションサービスやモバイルコマース、カメラなどを用いた監視サービスなどが挙げられている。

 立川氏は最後に、NTTドコモは今後、「高速インターネット接続」「ビジュアルコミュニケーション」「デジタルコンテンツの配布」「ロケーションサービス」「リモートコントロールアプリケーション」、それに「モバイル決済」という6つの分野に注力していくと述べ、「モバイルコミュニケーションは、個人であろうとビジネスであろうと有用なものだと確信している」とした。

 一連の講演の最後には、南アフリカ共和国のTelkom South AfricaでCEOを務めるサイジェ・ネクサセナ氏が登場。アフリカは、今最も急速にモバイル通信が成長している市場の1つだとし、実際、それが成功を収めつつある旨を紹介した。ただ一方で同氏は、デジタルデバイドの存在を再認識させられる言葉も残している。「アフリカの場合は、Recconectというよりも、今まさにConnectが進んでいる段階にある」(同氏)。

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▼ITU Telecom World 2003レポート

関連リンク
▼ITU Telecom World 2003

[高橋睦美,ITmedia]