エンタープライズ:ニュース 2003/11/06 12:12:00 更新


モバイル通信市場を支えるユニークなアイルランド企業

多くの課題に取り囲まれているモバイル通信事業者。アイルランドに本拠を置く複数の企業では、その事業者が高度なサービスを展開し、より多くの収益を上げられるように支援する製品を開発している。

 競合他社との競争、値下がりする一方の通話料金、その一方で求められる新たな付加価値サービス……現在の携帯電話事業者は多くの課題に取り囲まれている。そうした事業者がより高度なサービスを展開し、多くの収益を上げられるように支援する製品を、複数のアイルランドベースの企業が提供している。先日ジュネーブで開催されたTelecom World 2003の会場に登場したそうした企業の中から、モバイル市場にターゲットを絞ったソリューションを紹介してみたい。

 中でも最も著名なのは、Network365だろう。同社のモバイルコマースアプリケーション「mZone」は、タイトーとTISが展開しているモバイル用の会員制販売促進サービス「モバイルDEツール」にも採用されている。欧州では、ラジオ/テレビ番組の視聴者に向けたインタラクティブな投票システムなどでも利用されており、収益拡大に寄与しているということだ。

 同社プロダクトマーケティングマネジャーを務めるローナン・クレメン氏は、「他社には実現できない拡張性と信頼性を備えている点が、われわれのモバイルコマースソフトウェアの特徴。決済情報などセンシティブな情報はすべてサーバ側で、暗号化した上でやり取りするためセキュリティも非常に高い」と言う。

 そのうえ、決済額に応じて認証レベルを変え、「1ユーロの買い物ならば簡単な認証で済ませる一方で、100ユーロ以上の高額決済ならば指紋や音声認識といったより高度な認証を用いるよう、認証レベルを変動させることも可能」ということだ。同時に、あくまで携帯端末の画面は小さいことから、使いやすさを損なわないような工夫も凝らしていくという。

 クレメン氏は今後注目すべき課題として、「まずはデジタル著作権管理(DRM)が重要になってくるだろう。DRMは、着メロや待ち受け画像などのコンテンツの蓄積・配信に非常に適した仕組みであり、われわれもこの分野に注力していく。同時に、Mobile Payment Forum(モバイル決済フォーラム)が進めている決済標準に向けた取り組みも重要だ」と言う。

 さらに同氏は、ユーザーが常に持ち歩くことになる「携帯電話」という端末の特性を生かし、「電話が自身のアイデンティティとして用いられるようになる」という可能性を示唆した。Liberty Allianceなどで進められている協調型アイデンティティサービスと組み合わせることにより、レンタカーを借りる際などに携帯電話を利用して身分証明を行う、といった利用法が考えられるという。これは同時に、携帯電話そのものを決済端末として利用することにもつながる。

 「今や携帯電話はPCよりもずっと大きな市場」(クレメン氏)。中でも最も先を行く日本市場については大きな期待を寄せているという。

顧客満足度につながるサービスを

 このNetwork365のように直接エンドユーザーに触れる部分ではなくとも、バックエンドで通信事業者を支援する製品を提供している企業もある。その1つがAran Technologiesだ。

 同社の「Aran Assure」は、メッセージングやWeb閲覧、あるいはVPNなどさまざまなモバイルアプリケーションの挙動やスループットを監視し、それが要求されたSLAを満たしているかどうかを把握する製品だ。もしSLAに違反するような状況が起こりそうなときには、プロアクティブに設定を変更し、「顧客の経験を向上させ、満足度の向上につなげることができる」(同社セールスディレクター、アン・マリー・マレリー氏)。また事業者側では、ドリルダウン式のインタフェースを通じて問題の発生箇所を特定し、最終的にはどのユーザーの通信に問題が生じているかを容易に把握。それを踏まえたオペレーションの改善を支援する。

 Aran Assureの特徴としては、あくまでユーザーの視点に立ってサービス品質を把握できること、ユーザー個々の情報を元にしたパーソナライズエンジンを通じてカスタマイズされたサービスを提供できること、単一の事業者だけでなくローミングを行っている場合でも透過的に利用できることなどが挙げられる。

 これはつまり、顧客ごとにいい意味で差別化されたサービスを提供する役に立つということだ。限られたインフラの中で、ユーザーの増加に合わせてトラフィックを増加させていては、収益は改善しない。普通のサービスで十分なユーザー、あるアプリケーションだけ頻繁に使うユーザー、あるいは常に高いQoSを求めるプレミアユーザーなど、顧客の要望ごとに異なるサービスを提供することにより、双方がより高い満足を得られる。

 「価格低下の圧力が高まる中、サービスへの注目は高まっている」(マレリー氏)。その中で同社は、事業者によるきめ細かいサービスの展開を実現し、顧客の確保を支援していくという。

バックエンドの「課金」をサポート

 いっそう顧客に見えにくく、しかし事業者にとっては重要な部分に、課金システムがある。この部分をサポートする製品としては、Openetの「ActiveCharge」が挙げられるだろう。

 この製品は、2.5世代や第3世代の携帯電話、さらには無線LANシステムにまたがってサービスの使用状況を把握する課金・請求管理システム。集約した顧客情報をCRMと連携させ、より高度なユーザー管理に役立てたり、VoIPサービスの課金管理を行ったり、あるいは利用状況に応じて複数のコンテンツプロバイダーにまたがって料金を配分するといったことも可能だ。

 同社はこれを「リアルタイムなアクティブ・メディエーションシステム」と表現しており、既に米AT&T WirelessやVerisonなど多くの顧客を得ているという。日本を含むアジア太平洋地域への進出についても、現在まさに交渉を進めている最中ということだ。「技術も、この市場自体も非常にダイナミックに変化しており、その動きにすばやく付いていくことが大事だ」と同社は延べ、それゆえに絶好のチャンスが広がっているともいう。

 またNetwork365とパートナー提携を結んでいると言うAm-Beoも、同様に携帯電話と無線LANの双方にまたがって課金・決済を可能にするソリューション「RATE-REC」を提供している。米国やカナダ、オーストラリアなどで、モバイル向けコンテンツを提供するコンテントアグリゲータによる採用例があるということだ。今後登場する高速モバイル通信でやり取りされるであろうストリーミングコンテンツやゲームも視野に入れており、「新たな、より多くの収入をもたらすサービスの提供を支援していく」と同社は説明している。

 さらに、やや毛色は変わるが、モバイルアプリケーションの分野では2PM Technologiesのメッセージングサービス「GetMail」がある。携帯電話端末やBlackBerryなどから、専用のポータルサイトを通じて企業システムへのアクセスを可能にするもので、Microsoft ExchangeとLotus Notesが利用可能だ。SSLによってトランザクションを保護しながら、既存システムに対し透過的に利用できる点が特徴といい、既にBritish Telecomがライセンス契約を結び、サービスを提供しているという。

関連記事
▼ITU Telecom 2003 レポート

関連リンク
▼Network365
▼Aran Technologies
▼Openet
▼Am-Beo
▼2PM Technologies

[高橋睦美,ITmedia]