エンタープライズ:インタビュー 2003/12/11 23:37:00 更新


Interview:本格的に動き出す? 企業向けモバイル市場

企業向けモバイル市場を推進するベンダーには、同市場の本格的な立ち上がりの兆候を捕らえている企業もある。その1つが米サンタクララに本拠を置くEverypath。来日している同社のマーク・タプリングCEOと、日本法人であるエブリパス・ジャパンの大谷俊哉社長に話を聞いた。

 企業向けのモバイル市場は現状、携帯電話の利用を中心としたコンシューマー市場と比較すると、十分に立ち上がっているとは言えない。これは、企業がモバイル端末を使う場合には、コンシューマーよりも扱うデータ量が多かったり、基幹システムとの双方向のデータ交換が求められるなど、ユーザー側にかかる対応が複雑であることが、障壁になっていたようだ。

 だが、携帯電話やPDA、小型のPCなど、デバイスの性能が強化される一方、いわゆるモバイルSFAをはじめ、ビジネスを展開する上で自社のサーバ上の情報にモバイル環境からアクセスしたり、データベースを更新したいというニーズは高まっている。

 そして、実際に企業向けモバイル市場を推進するベンダーには、同市場の本格的な立ち上がりの兆候をとらえている企業もある。その1つが米サンタクララに本拠を置くEverypathだ。来日している同社のマーク・タプリングCEOと、日本法人であるエブリパス・ジャパンの大谷俊哉社長に話を聞いた。

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来日したタプリングCEOと日本法人の大谷社長。同社は、米国ではETRADE、Fidelity、Best Buy、日本でもDLJディレクトSFG証券、ジャパンネット銀行、マネックス証券、AIU保険、バイエル薬品などに導入されている。

 同社は1998年に設立され、2000年に日本法人のエブリパス・ジャパンが立ち上がった。主力製品は「エブリパス・モバイル・アプリケーション・ゲートウェイ(EMAG)」。これは、企業の既存の業務アプリケーションに手を加えずに、携帯電話やPDAといったさまざまな端末とのデータのやり取りを行う製品。例えば、営業担当者が自社のサーバにモバイル端末からアクセスし、顧客情報や在庫情報を参照したり、更新するといったニーズに対応することができる。また、インターネット証券会社のモバイル取引サービスにも多く利用されている。

ZDNet 企業向けモバイル市場におけるビジネス動向について教えてください。

タプリング 2003年は、売り上げが前年比2倍に上り、特にいい年でした。2004年もさらにその倍を見込んでおり、企業が業務のモバイル化に本腰を入れ始めたことを実感しています。また、総売り上げの50%以上は日本法人によるものであり、引き続き日本市場は重視していきます。

 これまで、PCや携帯電話などはコンシューマー市場で普及してきましたが、「そのうちエンタープライズに来る」と認識していました。特に日本市場は、携帯電話の普及で米国や欧州を一歩リードしており、モバイルのリテラシーが高いユーザーが多い。結果的に、Everypathの製品を受け入れるペースが早くなっています。

ZDNet 主なユーザーは、どのようにモバイル環境を利用していますか?

タプリング ユーザーとしては、製薬業界でのMRや、リアルタイム性が求められる製造業の在庫管理や受発注管理などに利用されているケースが多いです。DLJディレクトは、自社のモバイル取引システムをEMAGをベースに構築しました。PCを利用しにくい環境で、情報に携帯電話やPDAといったモバイル端末からアクセスできるようにすることで、ビジネスの効率がアップするケースは多くあります。特に、メディカル機器などは、製品が高価であるため、営業担当者の業務効率性を改善することによるメリットが大きい。

 顧客企業の1つである東芝では、フィールドサービスの2000人が、everypathを携帯端末にダウンロードし、必要な部品の有無を調べたり、発注を掛けたり、営業日報をこまめに入力するといった用途に利用しています。

 従来のように、自社に戻ってからオーダーをまとえてエントリーする場合は、どうしてもミスも発生してしまう。5000人の営業担当者がいて、1人1件のミスでも計5000件に上ります。また、営業日報も、通常業務の忙しさのために、週の最後にまとまて入力するといったことも多いと聞きます。それでは、内容の正確さに疑問が残ってしまいます。モバイル環境が整備されていれば、ユーザーは自分の空き時間を利用して、その都度日報を作成できるようになります。

ZDNet EMAGは技術的にはどんな仕組みでしょうか?

大谷 簡単に言えば、SAPやSiebelといったさまざまなアプリケーションのビジネスロジックに、それぞれに対応するコネクタを差し込み、モバイルに必要な情報だけを取得してくるイメージです。取得したデータはXMLを通じて、Everypath Serverに渡され、そこからデバイスアダプタを搭載したPDAや携帯電話とデータを同期させます。

 同期の方法も、状況に応じて2モード用意しているため、EMAGをベースに新しいモバイルソフトウェアを構築する場合も、柔軟に対応できます。

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EMAGのアーキテクチャ

ZDNet SAPをはじめ、各アプリケーションベンダーは独自にモバイル対応ツールを出していますが、それらの製品との差別化をどう行いますか?

タプリング EMAGは複数の種類のアプリケーションとデータを連携することができることがメリットです。各ベンダーがリリースしている製品は、基本的に自社アプリケーションとの連携だけを目的にしているため、ここが大きな差別化になると考えています。

 また、EMAGには開発ツールを用意しており、その開発効率が非常に高いことも挙げられます。

ZDNet 現状と今後のビジネス的な取り組みについて教えてください。

タプリング 10月22日に、システムインテグレータである日本システムディベロップメントが資本参加しました。投資額は1430万ドル、日本円でおよそ15億円に上ります。シリコンバレーで名の知れている多くのベンチャーキャピタルからも出資を受けており、われわれが「投資したい技術」を持っていることを示しています。

 今後は、ビジネスソリューションとしていかに顧客にアピールできるかが重要です。企業にとって見える形でビジネス価値を示していきたい。

 また、セキュリティ技術の向上や、モバイル端末のバッテリーやメモリ容量といった制約が取り除かれることも、われわれのビジネスに関係してきます

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[聞き手:怒賀新也,ITmedia]

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